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「…っ、やっぱり一人で寝ます…っ」
羞恥に耐えかねて膝から降りようとした所を宗一郎の腕に引き戻される。
俯いた顔を覗き込まれ、赤いまま彼を見つめた。
優しく目を細めた宗一郎にしずくもほっとして少し微笑む。
「もうこんな時間か」
「…はい」
時計を見た宗一郎の優しい指が頬を撫で、先程までの不快感を消していく。
「…宗一郎さん、大丈夫ですか…?」
「ん?」
ずっと考え事をしているのだと思っていたが、もしかしたら体調が悪いのかもしれない。
そう思って聞いてみたがしずくの思い過ごしのようだ。
「いや、何ともないよ。…心配かけたな」
「いえ…」
沢山聞きたいことがあったが、今は聞かない事にした。
──宗一郎さんが笑っていてくれるなら、それで良い。
「手首、変わりないか?」
「はい…」
右手を優しく握られ、しずくは頷いた。
「助けてくれて、本当にありがとうございました」
「…君に怖い思いをさせてしまった」
改めて告げれば、宗一郎は悔しそうに眉を寄せる。
──確かに怖かった、でも…
「…違います」
宗一郎に握られた手に力を込め、しっかりと彼を見つめる。
「助けてくれて本当に嬉しかったんです…」
「嬉しかった…?」
少し驚いたように宗一郎が瞬いた。
「…水族館、とっても楽しかったです」
「…っ」
気持ちが伝わるよう精一杯微笑む。
息を飲んだ宗一郎がしずくの肩に顔を伏せた。
「宗一郎さん…?」
応えがない宗一郎の髪をそっと撫でてみる。
自分より少し硬い髪を梳いていると、宗一郎が首筋に擦り寄った。
──いつもと逆だ…
しずくは少し可笑しくなってくすりと笑う。
「宗一郎さんも、楽しかったですか…?」
そのまま頷いた宗一郎の髪が耳元をくすぐる。
首筋に感じる温もりに、しずくは笑って目を閉じた。
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