#15

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「今日も雨か…」 新緑の頃が過ぎて雨の日が多くなってきた。 湿った空気に、リビングで外を眺めていたしずくは開けていた窓を閉じる。 右手もすっかり良くなり、“星彩をさがして”の制作も順調に進んでいた。 あれから宗一郎は偶に考え込んでいる様子を見せるものの、今まで通り過ごしている。 しずくの症状は相変わらずだが、体調が良い時には少しのドライブへ連れて行ってもらっている。 ──キスの事は、まだ聞けていない。 あの日から宗一郎が唇を合わせることは無くて、自分に都合の良い夢だったのかと思ってしまう。 だけどしずくは美しい青の世界で初めてしたキスを忘れたりしない。 未だ鮮明に甦る感触に、そっと自分の唇に触れる。 ──好き… 伝えられない気持ちは大きくなるばかりでしずくを苦しめる。 もし宗一郎も同じ気持ちだとしたら、自分はどうするのだろうか。 ──このままじゃ、宗一郎さんの隣には立てない。 このままのしずくでは彼を押し潰してしまう。 あの日哀しい瞳をした宗一郎を抱きしめながら、しずくは強く思った。 ──宗一郎を守りたい。その為に変わらなければ──…。 「しずく、おはよう」 「おはようございます!」 リビングのドアを開けた宗一郎をしずくは微笑んで振り返った。 あの日から一緒に寝ることが多くなっていたが、昨日は宗一郎が遅くまで執筆していた為それぞれに就寝したのだった。
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