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「朝ごはん、用意しますね」
「すまない」
微笑んだ宗一郎がテーブルに向かうのを見守りつつ、しずくは朝食を用意する。
朝方まで仕事をしていた宗一郎が起きたのはブランチの時間で、トーストやサラダに加えて夕食用に煮込んでいたポトフを添えた。
「お待たせしました」
「ありがとう」
宗一郎の前にトレーを置いてしずくは微笑んだ。
「お仕事は無事終わりましたか?」
「あぁ、朝方神崎に送った」
「良かったです」
宗一郎がスプーンを持つのを見届けて、しずくは窓辺に向かった。
「これ、美味いな」
「夕飯もポトフなので、申し訳ないですが」
「充分だよ」
苦笑して言えば宗一郎が可笑しそうに笑った。
しずくはラグに座り再び外を眺めるが、相変わらず暗い空に思わずため息をつく。
「…雨が続くな」
「はい…」
心無しかしゅんとしたしずくに気付いた宗一郎が、外を見て納得したように言った。
強くなってきた雨が大きなキャンバスに雫を残していく。
しずくはそっと内側から雫をなぞった。
「…ふふ」
──ちょっと可愛い。
じっと見ていると丸い宝石のように見えてきて、しずくは微笑んだ。
「楽しそうだな」
「わ…!」
思いの外近くから聞こえた声に、驚いて隣を見る。
朝食を食べ終わった宗一郎がいつの間にか傍に来ていたようだ。笑った宗一郎がしずくの頭を撫で、隣に腰を下ろした。
「君は意外なものに夢中になるな」
「ぅ…」
宗一郎の言うことはあながち間違いではなく、図星を指されてしまったしずくは何も言えず赤くなった。
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