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「褒めているんだよ」
「…うそです」
微笑んだ宗一郎に、しずくは少し拗ねたふりをして水滴に視線を戻した。
──宗一郎はあの日のキスを忘れてしまったのだろうか。
キスをしてからもしずくに触れる手は変わらず、優しいままだ。
傍に居るだけで良かった。触れてもらえるだけで良かったのに──。
だけど優しく触れる手に答えが欲しいという気持ちが日に日に大きくなっていく。
でも──。
同じことをしずくがもし聞かれても、本当のことは伝えられない。
少なくても今は──…
考えながらじっと雫を見つめていると、肩に宗一郎が凭れて、びくりとしてしまう。
「…宗一郎さん?」
「…」
反応が無い宗一郎を覗き込めば、目を閉じている。
「寝てますか…?」
「…寝てない」
恐る恐る問いかければ、宗一郎が瞼を上げた。至近距離で見つめ合う形になってしまい、しずくは焦ってしまう。
「…っ、からかってますか…っ?」
「眠いのは本当だ」
そう言って宗一郎は一つ欠伸をした。
朝方眠ったというから、きっと睡眠が足りてないんだろう。
「もう一度眠ったらどうですか?」
「あぁ…」
肩に凭れたままの宗一郎の髪をそっと撫でる。
最近はこうして宗一郎の髪を撫でることも多くなっていた。
少しは宗一郎の支えになれているような気がして、しずくはそれが何よりも嬉しい。
「一緒に寝ようか」
「…起きたばかりです」
宗一郎はともかくしずくはしっかりと眠っているので仮眠の必要は無い。
だけど肩から伝わる温もりには抗えず、しずくは頷いてしまう。
「…でもたまには良いかも…です」
「あぁ」
肩から伝わる振動に、宗一郎が笑ったのがわかった。
しずくもつられて笑い、ひとしきり笑ったところで宗一郎と穏やかな午睡を貪った。
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