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はじまり
満員電車に揺られながら、雨宮しずくは後悔していた。
12月のはじめ、週末の午後。
ラッシュにかからない時間なら人も少ないだろうと乗り込んだ所までは良かった。
けれど数駅過ぎたところで他の鉄道会社のトラブルで電車が止まり、やっと動いたかと思えば流れてきた乗客が乗り込んで車内はみるみるうちに満員となってしまった。
──ついてないな…
浅く息をついて額に滲む脂汗を拭う。
次の停車駅まではまだしばらくかかりそうだ。
しずくはある時を境に電車が──いや乗り物全般がひどく苦手になった。
それもあって普段はなるべく使わないように気をつけているのだが、今回はどうしても必要に迫られ止むを得ず乗車することになったのだった。
しずくは自宅で書籍や広告などイラストの制作を請け負って生活している、所謂フリーのイラストレーターだ。
高校在学中に出版社の目にとまり少しずつ仕事をこなしてきたのだが、五年目にさしかかった今年、担当した書籍の表紙が有難いことに賞をもらった。
その本は書籍自体が大きな賞を受賞した事もあって、一躍話題となったのだった。
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