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パワハラ系上司とのデートは、全然面白みがなくて苦痛ばかりだろうなと思っていたのに、最初から意外な一面を見る機会が多かったこともあり、驚きや笑いがずっと絶えなかった。
「充明くん、ジェットコースターは平気だって言ってましたけど、最初から最後までずっと目をつぶっていましたよね? あれで平気と言うのは、ありえないと思うんですが?」
「目をつぶっていても、風や重力を体に感じることができたし、声を出さずにちゃんと耐えられたからいいんだ!」
「だったら何回まで平気でいられるか、チャレンジしてみましょうよ」
吊り上がり気味の瞳が、信じられないものをみるような目つきになった。
「そんなことに、チャレンジする必要なんてない。閉園までの残り時間がもったいないだろ……」
「だったら、あと一回くらい――」
「次行くぞ。体力と気力を削がない乗り物はどれだ?」
私をその場に置いていくことをせずに、ちゃんと手を繋いで、どこかに行こうとする須藤課長の態度を見て、カラカラ笑った。
「愛衣さんがそんなに笑い上戸だったとは、知らなかったな」
「充明くんが私の笑いのツボを、いちいち刺激するせいですよ。笑い皺ができたせいで、老けたらどうするんですか」
「そんなの、俺が責任をとるに決まってる」
さらっとすごいことを言い放ったというのに、当の本人は顔色を変えず、顎に手を当てて先を急ぐ。
(ちょっと、どうして自分の言ったことに反応しないんだろ。冗談には冗談で返してほしかったのに!)
「愛衣さん次は……って、どうして赤くなってるんだ?」
「だって充明くんが、責任とるって言ったから」
上目遣いで指摘した途端に、首の付け根まで朱を注いだように、真っ赤になった須藤課長は、掴んでいた私の手を放り出し、両手をせわしなく動かして羽ばたいた。まるで飛ぶ練習をしている雛のように。
「……せ、せせせっ責任んんっ。これには深い意味はなくて、いつものくせでついっ! ああっ、仕事の話をしたらダメなのに、思わず出てしまった感じでその、結婚したいのは山々だがそれは遠い話であって、すぐってわけじゃなく!」
「充明くんの悪い癖。なんでも自分が引き受けちゃうから、その言葉が出てくるんです。せめて好きなコの前では、心を込めて言ってあげてくださいね」
「心を込める……」
「言葉は言の葉なんです。気持ちを込めてなんぼですよ。あっ、充明くんあれに乗ってください。写真撮りたいです」
誰も乗っていない貸し切り状態のメリーゴーランド。撮影するにはもってこいだろう。
「……いやだ。愛衣さんが乗ればいいじゃないか」
「充明くんがあれに乗ったら、間違いなく白馬の王子様みたいで、すっごく格好いいと思います。そんな充明くんを撮影したいなぁ」
「…………」
「ここに一緒に来た記念になるのになぁ。王子様になってる充明くんを、この目に焼きつけたいのになぁ」
「わかった、一周だけ乗ってやる。ただし撮影は一枚限定だ、写し損ねるなよ!」
一枚限定と言われたけれど、回転する被写体を撮影するのはブレることがわかっていたので、須藤課長が目に留まった瞬間から、バシャバシャと連射して、その中からベストな一枚を選ぶことにした。
前髪を優雅に揺らし、真顔のままピースサインをして白馬に跨る姿が、彼の真面目な性格を表していて、選ぶのに苦労するのは明白だった。
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