魔の巣窟での毎日!

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「須藤課長の指本体が、みーたんに嫌われているとか?」 「泣きたくなることを言うな。課金してこんなにみーたんに尽くしてるのに、嫌われているなんて思いたくない」  私は摘んでいた指をパッと放して、俯く須藤課長に顔を近づけながら。 「それで女心については、なにが知りたいんですか?」  落ち込む気持ちを持ち上げてやろうと話題転換したら、なぜか椅子を引いて私との距離をとる。 「あばばばっ!」 「私、変なこと聞きました?」 「いきなり顔をだな、近づけたりするな。心臓に悪い……」  椅子の背に縋るように抱きつき、目を潤ませながら訴えられたことで、私が須藤課長にイケナイコトをした感じになってしまった。この状況は部下にセクハラされて、怯える上司に見えなくもない。 「驚かせてすみませんでしたー。須藤課長のファーストキスなんか奪ったりしませんから、どうか安心してください」 「ファーストキスなんかって、なんだよその言い草!」 「言葉のあやで~す」 「俺だって本気になれば、キスのひとつやふたつ――」 「私の額にしましたよね、ちゅって」  自分の額を指さしながらこの間されたことを指摘した瞬間、須藤課長の顔だけじゃなく首まで朱に染まった。 「あ、あれはおまえの身長が……くくて、思ってたのと……くて」  肩をすぼめながら椅子の背をぎゅっと抱きしめて、ぶつぶつ念仏のように低い声で喋られても、なにを言ってるのかさっぱりわからない。つぅか唇にキスすることになったら、爆発しちゃうんじゃないだろうか。 「額のキスくらいでそんな状態になっていたら、いつまでたってもファーストキスを、誰かにあげることができないんじゃないですか」 「ヒツジのくせに、偉そうなことを言うな。自分が経験済みだからって、俺のことをバカにしてるんだろ」 「バカにしてません。心配してるだけです」 「そうか、心配してくれるのなら、ついでだ。俺のファーストキスを奪ってみろ!」  抱きしめていた椅子の背を本来の使い方にした須藤課長が、嫌な感じで顔を歪ませて、パワハラとセクハラをプラスしたありえない命令をした。 「須藤課長、みーたんの猫じゃらしの件だって、本来なら残ってまで教えるものじゃないのに、ファーストキスを奪えなんて信じられませんっ」 「どうせ、たいした数をこなせていないから、そうやって拒否るわけか。ふぅん」  あまりにムカつく言い方だった。しかも胸の前に両腕を組んで偉そうに言われたため、なおさらカチンときたことで、言いつけどおりにやってやろうと、須藤課長の顔を両手で躊躇なく掴み寄せる。 「なっ!?」  そのまま狙いを定めてキスした。だけど唇の先のほんのわずかな接触だったから、キスと呼べるものじゃないと思う。 「しましたよ。ごちそうさまでした」 「…………」 「早く仕事の話をしてください」 「にゃっ、なにやってんだ愛衣さんっ。君はちょっと煽られたくらいで、誰とでもキスするような軽いヤツなのか?」  須藤課長の瞳からぼろぼろ流れ落ちる涙に、絶句するしかない。しかもいきなりの名前呼びに、頭がパニックになった。
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