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須藤課長の断定する物言いは独特で、最初はキツく思えた。それが今じゃ安心感を覚えるから、不思議すぎる。この人に仕事を任せたらきっと大丈夫、そんな感じ。
「褒めてくれるのはありがたいが、失敗ばかり積み重なった結果が俺だ。愛衣さんの前で、惜しげもなく号泣してるしな」
どこかやるせなさそうな雰囲気なのに、ふわっと柔らかく微笑む。その横顔から、なぜだか目が離せない。
「充明くん、少しは肩の力を抜いてみたらどうです? 今の笑顔、思わず見惚れちゃいました」
「えっ? なんで?」
瞳を瞬かせて横目で私を見た須藤課長の表情は、驚きに満ち溢れていた。
「自然体で、とっても素敵でしたよ」
「……愛衣さん、運転中は褒めるの禁止だ。ハンドル操作があやしくなる! それとも俺をからかってるのか?」
「充明くん、嬉しかったんですね」
じわじわ頬が赤く染まっていく様子がどうにもおかしくて、指を差して大笑いしてしまった。
「くそっ! 褒められ慣れていないせいで、嬉しさを通り越して泣きそうだ。この間みたいに号泣したら、間違いなく事故る。一緒に心中することになるぞ」
悔しそうに言いながら、何度もハンドルを叩く。ハンドルを叩く音と私の笑い声が車内に響いて、煩いくらいに騒がしい。
「この間みたいに泣いたら、ハンカチじゃ対処できませんもんね。箱ティッシュは、この車にありますか? ああ充明くんの目に、涙が浮かんでるように見えなくもないかも~」
「愛衣さんっ!」
「充明くん、かわい~」
出逢いは最悪だったのに、今は車に同乗して冗談を言い合えるなんて、思いもしなかった。須藤課長がみんなの前で少しだけでも素直になったら、部署がもっと明るくて、とても居心地のいい場所になるのになと考えてしまったのだった。
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