魔の巣窟での毎日!

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***  はじめて訪れたテーマパークの案内表を手にしながら、どれに乗ろうか迷ってしまった。 「観覧車は最後のお楽しみにとっておくので、後回し決定なんですけど、一番最初はなにがいいかなぁ?」  手元に釘付けになってる私の横で、須藤課長がはっきり告げる。 「ゴーカート」  案内表をまったく見ていないのに、どうして断言できるのやら。 「はい?」 「二人乗りのゴーカートで、運転手は愛衣さんに決まり」 「ええっ!? 私が運転っ?」  しかもゴーカートの種類までわかっているところをみると、間違いなくここになにがあるのか、すべて把握済みなんだろうな。須藤課長の記憶力恐るべし! 「上司の俺に、ここまで運転させたんだ。このタイミングで接待しなくてどうする?」  須藤課長は、切れ長の二重まぶたをちょっとだけ細めて、私を見つめる。それは、なにかを命令するときに、垣間見ることのできる仕草だった。だけど彼と会社で一緒にいてわかったことは、相手に直視されるとガン見できなくなるから、瞳を細めてやり過ごしているっぽい。 「充明くん、今はデート中ですよ。会社の話は絶対にNGです。めっちゃテンションだだ下がりします」 (なんだかなぁ。会社の関係を持ち出して、私に言うことをきかせようとするとか、どんだけ不器用なんだろ。会社を匂わせるものがなければ、イジワルな彼氏に見えなくもないのに残念!) 「チッ、流されなかったか」 「私に運転してほしければ、普通にお願いすればいいだけのことです。さっきのような頼み方は、絶対にお断りします」  すると須藤課長はその場に立ち止まり、ちょっとだけ横を向いて、私から顔を見えないようにする。 「愛衣さん」  そっぽを向いたまま名前を呼ばれたら、正直なところ返事をしたくないけれど、それじゃあ話が進まない。 「……なんですか?」  しょうがないなぁ、めんどくさい人と思っているところで、須藤課長は背けていた顔を戻し、腰を曲げて私の顔にぐっと近づける。吐息が耳の穴にかかる位置まで近づくとか、なにを考えているのやら。 「愛衣さんが運転してるかわいいところ、俺は見たいんだけどな。ダメ?」  言い終えたあとに、耳朶にちゅっとされてしまって「ヒッ」なんていう色気のない声を出してしまった。 「須藤課長っ、ぃいっ、いきなりなにするんですか。くすぐったすぎて、変な声が出ちゃったじゃないですか」 「あれれ~? 今の俺は充明くんじゃなかったっけ?」  間近にあるしてやったりな顔が、非常に憎らしい。あれれの言い方が某アニメに出てくる、見た目は子どもなのに中身は大人のキャラにそっくり。しかしながら声に、かわいらしさの欠片もないけどね。
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