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「そんなに眺めていると、写真の中の俺の顔が溶けるぞ」
「だってベストな一枚を、選び損ねたくないんです。どれも充明くんの素敵な瞬間ですから」
「残していいのは一枚だけだ。36枚も撮るから、そんなに悩むことになる。無駄撮りだろ」
最後のお約束の観覧車に、仲良く乗り込んだ私たち。まだ低い位置にいるせいか、須藤課長は口煩さをそのままに、平気そうな顔で外を眺める。
「愛衣さん」
「はい?」
不意に呼ばれたので、仕方なくスマホの画面から目の前に視線を移した。私を呼んだくせに須藤課長の瞳は、相変わらず外に釘付け状態。地上からゆっくり離れていく自分を、まざまざと感じとっているみたいに見えた。
「今日は楽しかったか?」
「想像以上に楽しかったです。こんなに笑ったのは、久しぶりってくらいに」
「あのさ! 隣に座ってもいいか?」
私が返事をする前に、さっさと移動したところを見ると、高所恐怖症が発症しているのかもしれないな。
「充明くん、いきなり隣に座らないでくださいよ」
「返事が遅いのが悪い」
「そんなこと言うなら、移動しようっと」
腰をあげかけた刹那、私の腕に縋りつく。動きを止めた須藤課長の両手が、小刻みに震えていた。
「お願いだ、行かないでくれ……」
「わかりました。しょうがないですね」
言いながら須藤課長の縋りつく手を外し、両手で握りしめてあげた。ものすごく冷たくなっている手が、逆に心配になる。少しでもあったかくなるように、何度も擦ってみたけれど、氷を撫でている感覚だった。
「充明くんのこのやせ我慢、いつか報われるときがくるんでしょうかねぇ」
「わからん……」
観覧車はまだ半分くらいしか昇っていないというのに、須藤課長の視線は擦っている手を見つめていた。
「充明くん、好きな人には高所恐怖症だから、観覧車は乗れないことを最初に伝えたほうがいいですよ。格好悪いところ、そのコに見せたくないでしょう?」
「でも、記念に……なるんだろう?」
「なるとは言いましたけど、別なことでもいいと思います。だって、ふたりの記念なんですから」
「たとえばどんなのがい、いんだ?」
好きなコとの記念にこだわる、須藤課長の頑固さには呆れてしまったけれど、それでもなんとかしようとするところは、素直にいいなと思えた。
「どんなの……。う~ん、今日のいい思い出といったら、ゴーカートでの共同作業みたいな?」
「あんなのが、いい思い出になるのか?」
「だって一緒になにかをするってこと、普段ないじゃないですか。危なげな私の運転を助けてくれた充明くん、本当にカッコよかったですし。きっとポイント高いと思います」
褒めた途端に、須藤課長の表情が和らいだものに変化した。いつも、こんな顔をしていたらいいのにと考えていたら、隣で大きな体を縮こませながら、ぽつりと呟く。
「それなのにこの情けない姿は、あがったポイントがマイナスになるだろうな」
「ふふふ、ほかの人には見せられませんね」
私が笑ったら、つられるように笑った須藤課長の頭があがる。ふと外を見たかと思ったら顔を強張らせて、いきなり私に抱きついた。
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