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窓を眺め、儚さを纏う少年 ー 望月 桜華ー
もう夏が近いなと桜を散らした木を見ながら思う。
ぼんやりと外を眺めている間に教室には自分1人だけになってしまっていたようで、風が窓を撫でる音だけが耳に響く。
心地よい静寂を堪能しているとガラリと扉が開く音が聞こえ、聞きなれた声が届く。
「さーくちゃん!帰ろ!」
声の聞こえた方に顔を向けると、想定していた通りの人物がいた。
「煩いですよ、コウ。あと私の名前を訓読みで呼ばないでくださいと何度も言ってるでしょう?」
和田晃哉。幼馴染で、何故か私の名前を訓読みのあだ名で読んでくるクソボケ腐男子だ。
クラスが違うにも関わらずいつも一緒に登下校しようと誘ってくる。
まぁ別に嫌では無いので誘いは受けているが。
「え〜、別にいいじゃん。俺とさくちゃんの仲でしょ♡」
「はぁ……もう良いですよ。どうせ言っても聞きませんし」
この幼馴染にはもう何を言っても無駄だと諦め、帰る準備をし始める。
と言っても鞄の中に机に置いていた本を入れるだけだが。
鞄を肩に掛け、少し待たせてしまったコウに行きましょうと声をかける。
教室を出て寮へ歩いている途中、何を思い出したのかコウが鼻息を荒くしながらこちらに話しかけてくる。
「ねぇねぇ!そういえばさ、さくちゃん知ってる?」
「はぁ?何をです?」
質問の意味がわからず、こちらに顔を寄せてくるコウを押し返しながら返事をする
「転入生だよ!転入生!!」
「近いうちにこの学校に転入生がくるらしいんだ!これは絶対絶対王道転校生だよ、間違いない」
本当に何を言っているんだ?このクソボケ腐男子は。
「転入生がくると言うことは分かりましたが、何故そこから王道なんたらの話になるんです?」
「王道なんたらじゃない!王道転校生だよ!!さくちゃん、これは大事件なんだよ!?ねぇ、真面目に聞いてる!?」
はいはいと白けた目で話を流す。どうせいつもの発作だ。こいつの腐ィルターが発動したんだろう。こういう時は聞いている振りをして右から左に流すのが正解だ
ただ、王道転校生やらは置いておくとして、転入生に関しては少し興味がある。私の役割にも関わる話だろう。
「コウ。その転入生とやらに関しての情報はあるんです?外見や性格などの」
事前情報は大事だ。
物によってはこちらも対策を考えねばいけないかもしれない。
"親衛隊総隊長"という座に収まっている以上、新たな波乱を巻き起こす可能性があるものは出来る限り排除しなければ。
「ん〜、情報かぁ。それが全く分かんないんだよね〜この腐男子の情報網を持ってしても掴めないんだ。何か事情があるはず…!そう例えば理事長の親戚とか…!」
「そんな厄介な人はあまり来て欲しくはないですねぇ…」
「それフラグだねさくちゃん♡」
何がフラグだクソボケ腐男子
そんなフラグは立たなくていい。これ以上この学校に事件が巻き起ころうもんならあの人の胃が爆発してしまう。もし本当に来てしまったら胃薬を差し入れた方がいいかもしれない。
「あ〜、もう寮か。じゃ、また明日の朝ね、さくちゃん」
「ええ、また明日」
どうやら話している間に寮に着いていたようで、コウがぱちりとウインクをしながらこちらに手を振ってくる。それに片手を上げて返しながら自分の部屋へ向かう。
あの同室者は帰っているだろうか。
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