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「───。まあ、これぐらいかな?どう?わかった?」
「いえ、宇宙語なんて通じませんから。」
「ん?僕って地球外生命体か何かだと思われてる?」
私は無表情にむすっと拗ねているのにこの人は呑気に笑っていて、爆笑している。
その人の笑い声を背景に私は言われた通りに言葉にした。
「・・・・・・ごちそうさまでした。」
「あ。ちゃんと言うんだ。聞いてくれてたんだね。」
「はい。しつこく言ってきたので。」
「あれ?根に持ってる?」
やっと解放されて私は食器を置いた。
......さて、どうしたものか。
いつもならすぐに押し入れで隠れていたけれど、この家にそんな物は無いし、クローゼット?タンス?
そんなことしたら怒るかな?
この人の性格がわからない。欠点や、短所さえ見つかれば済む。
この人はおおらかで怒らないから、何を仕出かすかわからない。
私はその人をじっと見つめた。
「・・・・・・え?何?僕がどうかした?」
「別に。見てただけです。」
「もー、エッチ。」
その人は何故か手で胸を隠すようにバッテンをつくってニマニマしている。
私はこの人が何を示しているのかわからない。
......何だ、コイツは。
「・・・・・・は?」
「そこは突っ込んでよ!」
私は半目で聞き返すと、顔を真っ赤にして恥ずかしそうに怒鳴るから、全く怖くなかった。
なんでかな?怒られているんだろうけど、面白い。
可愛い。こんな顔もするんだあ。
「ふふっ。ごめんなさい。」
私はくすっと笑ってしまった。
後になってから、怒られると思って内心びくびくしていると。
「・・・・・・笑った。今笑ったよね?やったー!」
なぜか私の肩を掴んでとても嬉しそうにしている。
間近でこんな馬鹿みたいに喜んでいる姿を見て驚いた。
......?なんで笑っているの?
普通なら罵って殴りつ蹴るんじゃないの?
「・・・・・・。」
「あ、いや、ずっと無表情だったからさ。心配だったんだよ。」
「心配・・・・・・?」
「うん。君の笑ってるところ好きだなあ。・・・・・・ねえ、もっと笑顔でいてよ?」
私を心配してくれている人がいた。
それだけのことなのに、すごく嬉しかった。
心が冷えて凍えていたのが暖かく溶けて、縛られていた枷が外れかかる。
それが唯一の光だった。
凍てつく氷の中の誰もいない孤独な牢獄から抜け出す鍵を見つけた。
鍵は牢獄の外で手を伸ばせば届くかもしれない。
鍵の先にはその人が立って私を見ていた。
にこりと笑い、大丈夫だと微笑んでいる。
むず痒くて、でもとても嬉しかった。
初めて心から笑えた。
「......。」
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