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∬神出鬼没∬
その人は突然に現れた。
見ず知らずの私に話しかけて。
「こんにちわ。何してましたか?」
「・・・・・・たった今貴方に話しかけられました。」
ただの通行人Cになればよかった。
この人を知らないフリをして無視をすればよかった。
「ああ、そうじゃなくて。今少しいいですか?」
「何ですか?」
やっぱり無視をすればよかった。
大事なことだからもう一度言うけどやっぱり無視をすればよかった。
「・・・・・・そんなに警戒しないでください。」
「・・・・・・。」
「・・・あっ、そうでした。申し遅れていましたね。」
そう言って無表情で無言の私に微笑んで目の前の彼は言った。
見ず知らずの他人に道端で話しかけて見下ろすその人。
いや、もしかしたら見ず知らずの他人なんかじゃなかったのかもしれない。
少なくとも、私もあの人も。
「こんにちわ、君を拐いに来ました。誘拐犯です。」
丁寧な口調でその人は言う。
ごくりと息を飲んだ。
その人は詐謀偽計な男。
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