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ちょうど話し掛けられてしまったようだ。
私は至って普通の女子高生。
みんなと寄り道をして、友達ともいいschool lifeを送って、家でも仲睦まじい親が帰りを待っている───とは言えない。
想像にお任せするけど、普通とは程遠い生活。
それだけだ、例え私が困っていたとしても誰一人として心配すらしない。
それが当たり前なんだ。
と、くだらない余談はこのぐらいにして本当にどうしたものか。
私はギロリと睨み付けてラフな黒色のパーカーを着ている男の人を見る。
黒髪で癖っ毛なのか外側にカールした髪型。
見下ろされる程に高身長。
私は百六十センチメートルあるが、それ以上だから百七十はあるだろう。
天然の黒髪セミロングで青色と黒色のチェックのスカートに紺色のジャケットを着ている制服姿の私に話しかけてくるぐらいだ。
まさかこんな真っ昼間からナンパなんか堂々としているが、何にせよ変質者だ。
「海夜原 愛菰(みやはや あこ)ちゃんだよね?」
その人はへらへらと笑っていて、考えていることが全く読めない。
表情の一つも変えず、まるで真っ黒の仮面を被っているようだった。
それに、私の名前を知っている。
珍しい名前なのに、どうして知っているのだろうか。
「・・・・・・そうですが、何ですか?」
精一杯の虚勢を張って真顔のまま告げた。
「僕は裕璃崎 愼(ゆりさき しん)だよ、宜しくね。ところで君はもちろん僕の家に来てくれるよね?」
「・・・・・・。」
突然見ず知らずの他人が自己紹介したところで何も思わない。
さらに家に来てほしいと言いながら脅迫混じりの誘拐だ。
確かこの人は私を誘拐しようとしているんだ。
私は何も返事ができなかった。
私は本当に無計画で無警戒だ。
こんな生活を十年以上続けているせいで身体の痛みが麻痺している。
道中の端で私たちが言っている内容すら通る人はどうだっていい。
それぐらいに他人に無関心だからだ。
私も同様で自分のことだというのに、他人のように思えて、正直どちらでもよかった。
もしも今私が叫べば誰かが助けてくれるのだろうか。
そんな気力もない。お腹が空いていたのも通り越して痩せ細っていく。
あんな暮らしをしているせいだ。
その時、私はある一つの策がひらめいた。
どうせ、私が帰るのも深夜だ。
ならこの男の家に行ったとて今と変わらないだろう。
それならいっそのこと誘拐されるべきじゃないか?
誘拐されればあいつら(親)が偽善者ぶって警察に通報するだろう。
それなら私とこの男は追われる立場になる。
あいつらも困ってこの男も困る。
それならば一石二鳥じゃないか?
簡単だった、選択肢は無い。
「・・・・・・いいですよ、行きましょうか。」
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