156人が本棚に入れています
本棚に追加
**£**
「ここが俺の家。」
そう言われて見上げると私は目を疑った。
そこはおしゃれで普通の人ならば入れない超高層マンションだった。
タワーマンションとも言うけど、どちらにせよすごすぎる。
下からざっと数えて二十五階建て。
確かに街中を歩いてはいたけどこの人に話し掛けられた場所からこんな近くだったとは、思わなかった。
「それじゃ、行こうか。」
そう言ってこの男の人は私に手を差し伸べた。
まるでお姫様に扱うような態度で手を取れとでも言いたいらしい。
残念だか、私はそんなに可愛くもないし、なめられている気がして気にくわなかった。
ひらりと交わし、横切って自動ドアが開く。
「そういうのは恋人にでもしたらどうですか?」
「ははっ、恋人なんかいないよ。」
「・・・・・・。」
その人は私を追い掛けて隣に追いついた。
どうでもよくて答える気にもならなかった。
オートロックを解除してエレベーターに入る。
無言のまま目を伏せて待った。
その男の人は最上階の二十五階を押した。
また目を疑いたくなる。
やはり、この人は普通の会社員ではない。
そこそこに偉い人なのかもしれない。
だとしてもどうして私なのだろうか。
横目で勘繰っても意味がなく、ただ二十五階を待つだけだった。
ドアが開き、右側にまたドアがある廊下を歩き、一番奥のドアで止まった。
どうやらそこが家らしい。
男の人は鞄から鍵を出して差し込み開けた。
「中に入って?」
そう言われたので私は綺麗に整理されていて茶色と黒や白で統一された部屋を見渡した。
一人暮らしにはとても広く見た限りでは五LDKはある家だった。
その人は「ソファで話そう。」と言われて広く長いソファの端に座り、その人は私の斜め右の一人用ソファに腰掛けた。
「それじゃ、まずはルールを決めようか。誘拐とはいえ、同居だからね。」
私は覚悟を決めた。例えこの人がどんな狙いだとしても妥協するしかない。
体を求められても否定はできない。
むしろ体以外に狙いがあるのか定かではない。
「一、君はこの家から出ない。
ニ、お互い素で話そう。
三、僕からは君に手を上げない。くらいでいいかな?」
「・・・・・・え。」
その人は指を折って笑顔で言う。
私は思わず声を出してしまった。
驚いた。まさかそう言うとは思ってもいなかったからだ。
てっきり性的暴力をされるのかと思っていた。
嫌なことがあれば殴られて発散対象の玩具にでもされる覚悟はあった。
実際に学校でも家でもそうだったから......。
「不満でもあったの?」
「い、・・・いえ大丈夫です。」
「そっか。ならよかった。」
私はもう少しだけ他人を疑う癖と、もう少しだけ後先を考える癖を身に付けておけばよかった。
そうしたらこの人のことも自分のことも考えられたのかもしれない。
こうして、私と誘拐犯の同居が始まった。
最初のコメントを投稿しよう!