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その人は頭を掻いてくるりとキッチンへ踵を返した。
気まずそうにその人は言ってしまい、私は無心のまま居眠りをした。
だから何をしていたのか、何を思われたのかは知らない。
**£**
「......。」
「あ、起きた?」
私は目を開けると軽い仮眠をしていたらしく、目の前にはしゃがんでいるその人が至近距離で見上げていた。
私は目を擦り、脳を働かせて美味しそうな匂いに釣られて起きたようだ。
見下ろしていたその人は立ち上がり、隣に座った。
「・・・・・・すみません、寝てしまうなんて。」
「ううん。いいタイミングだったし、僕の家で寝れるってことは少しは警戒してないってことだよね?」
「警戒は・・・・・・してますね。」
「あれ??」
その人はくすくすと笑っていた。
目の前の机には豪勢なハンバーグなどの洋食が二人分並んでいた。
私は目を輝かせた。
外観の食品サンプルなんかで見たことがある。
実際には一度も食べたことがない。
「さあ、食べようか。いただきます。」
「・・・・・・。」
箸をつけて食べている横で私はどうすることもできなかった。
二人分並んでいるんだ。
これは私が食べてもいいの?
匂いも見た目も美味しそうでお腹が鳴りそうだ。
生唾を飲み込んだ。
「ん?食べないの?」
「・・・・・・私を試してます?」
「なんで!?」
その人は驚き少し笑っていた。
私は恐れ戦いた表情で言った。
「だって私にご飯なんて奇跡みたいなものですよ。」
「君のために作ったんだから食べてよ?」
「ですが・・・・・・。」
私は躊躇い、目を逸らした。
もしかしたら私を泳がせて罠に掛けようとしているのかもしれない。
それぐらいに私にとって当たり前が異常だった。
「わかったよ。そこまで君が食べたくないならこれは要らないね。」
「・・・・・・?」
私が一向に箸に手をつけず、拒否し続けていると、その人はため息を吐いて箸を置き、立ち上がると私の目の前のご飯をキッチンへ持って行った。
私は焦った、この人が何をしたいのか......?
「な、・・・にしてるんですか?」
「僕は二人前なんて食べきれないし、君も食べないなら要らない。だから棄てるんだよ。」
「え・・・・・・?」
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