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座席表
タイムカードを押して、次に掲示板の座席表を見るのが私たちの日課。
どうかどうか、田中さんの近くじゃありませんように。
毎回祈りながら席をチェックする。その日も少し離れた所で安堵した。何とか生きていける。
ホッと息を吐いた時、後ろにスッと人影を感じる。
「お、おはようございます!」
「っス」
田中さんは座席表から一瞬で自分の名前を見つけ出し、即座にその場を離れた。
挨拶だけでも冷や汗が出る。
今できることは、明るい笑顔で挨拶することと、一生懸命仕事すること。
田中さんの黒いトレーナーの背中にプリントされた龍を見つめながら、今日もできるだけ関わらないで済むように、と願った。
田中さんは細身で背が高く、声もイケボで、仕事もできる。顔もハンサム。とにかく目力が強い。強すぎる。
黒い短髪をセットした毛先がツンツンして、ハリネズミを彷彿とさせる。触ったらきっと血が出る。
「石見さん」
後ろから恐ろしい、かの人の声。
「今日仕分け。できますか?」
「は、はい!」
『仕分け』は、お客様のカードの種類によって管理先をファイル毎に分ける作業だ。お問い合わせも混じっているので、然るべき部署に回さないといけない。
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