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仕分けは昨日隣の席だった前場さんに教わった。
できる! まだ覚えているし、メモもある。
「お任せください!」
何を根拠にか、私は拳を握りしめて自信満々に言い放った。きっとテンパっていたに違いない。
「……フッ」
息の漏れる声に驚いて見ると、彼は笑っていた。
その場から離れるどころか、空いている椅子を引き寄せて茫然と彼を見る私の隣に座り、手に持っていたペンでパソコンの画面を指差す。
「ここ開いて」
言われるがまま、私は震える指でマウスを操作する。「カチカチ」と鳴るマウスの音もやけに指先に響いた。
「仕分けで気をつけるのは……」
田中さんは、作業を順序良く行うコツや、見極めのポイントなど教えてくれた。
緊張でガチガチだった心は、今度は違う感覚で跳ねまくっていた。
優しい声も、体の距離も、近い。
少し訛った話し方。彼の出身地はどこなんだろう。
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