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一頻り教わり、何件か処理して田中さんは大丈夫そうだと判断したのか、「じゃ、お願いします」と腰を浮かせた。
「あの、田中さんって、ご出身どちらですか?」
「……しま」
「え?」
「標準語喋ってるつもりなのに。ショック」
そう呟いて口を尖らせた田中さんがなんだかものすごく可愛て、思わず笑ってしまった。
「訛ってる方が好きです」
「……石見さんは、地元ここですか?」
「そ、そうです」
でも数年前に実家を出て一人暮らしを……と言おうとした矢先、田中さんは立ち上がって椅子を片してしまった。
「鹿児島」
それだけポツンと言い残して、自分の席に戻っていく。
彼の口元が笑っていて、思わずパッと背を向けた。た、大変だ。心臓が大変なことになっている。心臓が運動会! いや、オリンピック選手並みの跳躍運動をしている。
仕事! 仕事仕事仕事!
集中するんだ!
胸の痛みと暖かさに気付かないふりをして、私は一心不乱にキーボードを打ち叩いた。
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