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昼が近くなった頃、突然田中さんが「やべ」と呟いた。
その声に彼の方に顔を向けると、初めて見る戸惑った顔。
「どうしたんですか?」
「お客様からのメール消したかも」
それから少しマウスで操作した後、田中さんは立ち上がって自分より上の管理者の所に行った。
ハラハラしながら自分の業務に戻って仕事していると、田中さんと管理者が一緒に戻ってきて、血相を変えてパソコンに向かう。
「ああー、これはまずいね〜」
「すみません」
「他のリーダーにも言っとかないと。またやられたら大変だから」
その言い方についムッとしてしまって。
「そんな、ボタンひとつで消えるシステムがおかしいんじゃないですか」
などと、分不相応なことを言ってしまい……。
田中さんと管理者から注がれた視線が針のように痛かった。気付かないふりをして画面から目を逸らさないでひたすらキーボードを叩き続ける。
その後もう一人、ソフトの責任者の人がやってきて、田中さんのパソコンを操作した。
「ああ、あった、あった」
「ありがとうございます」
醸された明るい雰囲気。ソフトの責任者が戻っていく。ほっとした田中さんに「大丈夫だったんですか?」と尋ねると、彼は「ゴミ箱に入ってた」と一言答えて、ペットボトルのお茶をグイッと飲んだ。
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