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一
「ただいま。
ふぅ、なんとかイブには間に合ったみたいね」
「おかえり。
今日はまた遅かったね、お疲れ様。
もう十一時だ。
でも今から料理なんて大丈夫なのかい?」
「大丈夫よ、任せといて。
でも悪いわね、せっかくのクリスマスなのに一流ホテルのディナーで乾杯、とか行けなくて」
「それよりも君の手料理の方が楽しみだよ。
普段あんまり料理とかしないだろ?」
「そうね。
だから今日は気合い入れて頑張っちゃうわ」
「はは、でもあんまり無理はしないでくれよ。
クリスマスディナーがおせち料理になってしまったら困る」
「ふふ、あなたって意外とくそしょうもないアメリカンジョークみたいなこと言うのね。
心配しないで、今日はいつもより特別に気が高まる日だから時間はかからないわ」
「……今なんか色々おかしくなかった?」
「え?何が?」
「え?あぁ、いや、えぇと……」
「もう、わけわかんないこと言ってないで、ほら、あっちでクリスマスならではの、浮かれた出っ歯が視聴者と電話する特番でも観てなさいよ。
こういう特別な料理は作るとこ見られてたらサプライズ感が台無しでしょ?」
「あ、あぁ、そうか。
じゃあよろしく頼むよ。
でも疲れてるならそんな頑張らなくても……」
「いいから!
あたしに向かってそういういかにも僕は女性に気とか遣えるフェミニスト系のいいやつですよ的なアピールしてご機嫌取らなくたって、今さら点数は伸びないんだから」
「は、はぁ……そんなつもりじゃないんだけど……」
「いいから!
……ったく、最近の男子は昭和のパワハラオヤジを反面教師にし過ぎて顔色伺いが甚だしくて、便利だけど時々鼻につくのよね。
ま、それはさておき、そんな怯えた小動物のような愛しい彼にしっかり手作りディナーをふるまってあげないとね。
どうせ気を遣ってまだ何も食べてないんでしょうし。
客観的に考えたら、お腹空いてるのに何も食べないなんて生物として狂ってるとしか思えないんだけど、それも流行り廃りかしら、仕方無いわね。
えぇと、まずは……」
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