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二
「よしっ!
前半戦終了!
どうかしら、いったん見てみる?」
「お、随分早いね、前菜の完成かな?
でも途中で見ちゃっていいのかい?」
「まぁとりあえずの経過報告みたいなものよ。
ここまで来たら後はほぼ一瞬みたいなものだしね」
「いやぁ、しかしすごいね。
料理の才能あるんじゃないの。
こんな短時間でクリスマスディナーが半分出来ちゃうなんて……って……」
「うふふ、どうかしら」
「いや、あの……何、これ……」
「何って、鳥よ、鳥。
クリスマスといえばチキン的なディナーに決まってるじゃない」
「いや、えぇと……なんか色々わかんないんですけど……」
「あら、何が?」
「クリスマスと言えば、フライドチキンとかローストチキンとかそういうことだよね……?」
「そうよ、当然じゃない」
「でもこれ……その……そういう料理になる前の状態っていうか……完全なるニワトリそのものだよね……?」
「うふふ、ニワトリなんて作るの、いつ以来かしら。
羽毛とか、ほんと超めんどくさかったわ。
でもここまでくればあとは捌いて適当に塩とかタレとかぶっかけてこんがり焼くだけ、ほとんど完成したも同然よね」
「いや、あの……エキセントリック過ぎてちょっと何言ってるのかわからないんですけど……」
「いやだ、ひどいわ。
せっかく腕によりをかけた手作りの鳥だっていうのにいちゃもん付ける気なの?
さっきまでのフェミニン臭い過剰な気遣いはどこへ行ったのよ。
結局これがあなたの本性だったってわけ?
片腹痛い話ね!」
「い、いや、そういう話じゃ……だってこれ……そもそもどうやって作ったの?
帰ってきた時、普通に普通のスーパーの買い物袋下げて……いや、違ったのかな……あれ……?」
「もう、めんどくさいわねぇ。
過程はどうあれ、出来上がった結果がすべてでしょ?
いい大人が細かいこと言ってんじゃないわよ。
ほら、ちゃんと確かめて御覧なさい。
完全なるニワトリよ。
我ながらよく作ったものだわ、こんな気持ちの悪い赤いびらびらしたものを顔面に貼り付けて時折奇声を発しては卵を産み落としていく奇怪で不快な生命体を」
「いや……何を言ってるんだか……って、すごいな……どう見ても本物じゃないか……羽毛とか……目の感じなんて完全に……。
一体何がどうなって……っていうかただのスーパーの袋に見えてたけど、実はこういう状態の鳥を丸ごと買ってきたとかそういうんじゃ……」
「ひどいわ!
手作りの鳥の料理が食べたいって言い出したのはあなたじゃない!」
「いや、僕が言ったのは手作りの『鳥の料理』であって、これは『手作りの鳥』の料理、ってことだろ……?」
「屁理屈言ってんじゃないわよ!
何よ、現物を見た途端に手のひら返したように文句ばっかり言って!
男ってそういうところあるわよね!
口先ばっかり上手いこと言って、本当は全然本気じゃないくせにさ!
そうよ、いつか必ず結婚しようなんて言っておいて、どうせそのいつかなんて永遠に来ないのよ!
馬鹿にするんじゃないわ!
いいわよ、そっちがその気ならこっちにも手段はあるんだから!
淑女ぶって指くわえて待ってないで、こっちから攻めればいいだけのことよ!
とにかく今日はあなたに手作りの鳥の料理を食べさせるのが目的なんだから、こうして、こうして、こうしてしまえばいいのよ!」
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