青春カップパフェ

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「カップパフェが食べたい」 「そうか。勝手に行ってこい」  宝太郎の後頭部に岡本のキックが炸裂する。しかし痛みはない上にただ頭をすり抜けただけだが、その箇所がムズムズするので不快感がないというわけではない。いきなり目の前を黒ストッキングの足が通過していくというのも少なからず驚いてしまう。 「カップパフェが食べたい」と岡本は繰り返す。  もちろん宝太郎の返答が変わることもない。が、また幽霊キックを貰うのも癪である。ダカダカとキーボードを叩いている手を止めて、傍らに浮かんでいる岡本へ向き直る。 「何をどうしたいって?」 「カップパフェが食ーべーたーいー!」 「まずその頓狂な名前の正体について教えてくれ」 「それで調べればいーじゃん」  岡本が指差したのは、宝太郎が今までレポート作成のために用いていたパソコンである。画面上では文書作成ソフトが開かれているが、順調に作業が進んでいるとは言い難い。宝太郎は一瞬面倒くさそうな顔になったが、だからといって行き詰っているレポート作成を再開する気にもなれなかった。  誤魔化すように頭をポリポリとひと掻きした後、岡本の指示通りに聞いたこともない店名を検索した。すると、確かに女子が好みそうなイチゴやクランベリーなどをふんだんに使ったメニューの写真が映し出された。透明なプラスチックの容器野中はフルーツやコーンフレーク、アイスなどそれぞれが何層にもなって重なっている。片手サイズのそれは食べ歩きにうってつけだろう。パフェやクレープなど甘いものにありがちな、飽きが来る前に食べ終えられるというのも良い。 「ね?美味しそうでしょ」  宝太郎の隣から楽しそうな様子で画面覗く岡本。  その通り、これは美味しそうではある。可愛らしく盛り付けられたデザートに女学生が引き寄せられるのは地球の引力と同じように抗えないものだと宝太郎は思う。なるほど、この幽霊女子高生でも興味を示すのは明々白々だ。  ただし、そのことと宝太郎がこれを買いに行くことは別問題である。 「というかよく見りゃ都内だけの移動販売じゃねーか。近いところでもここから電車で……1時間くらいか。やっぱ一人で行ってこい」 「それが出来ないから頼んでるの!美少女の言うことは聞くの!だからつーれーてーけぇー」  台所の塩をこの幽霊の顔に塗りたくってやりたい、宝太郎はそんな気持ちを抑えて、やりたくもないが他にやることがないのでレポートの続きに戻ることにした。  この岡本という女子高生の姿をした幽霊は、いわゆる人間に憑く悪霊である。本人曰く「地縛霊ならぬ、人縛霊?」らしい。つまり宝太郎に憑くだけではなく彼の傍から動けないという、なぜそんなややこしい設定を盛り込んでしまったのかと問いたくなるような肩書きを持っているのだ。いっそ浮遊霊ならば彼女にこんな悩みなんて生まれなかっただろうに。
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