ホメディアン

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僕は飯塚瑛太、22歳で独身だ。見た目は軽率そうだが、結構いい大学を卒業している。この度、製薬会社からホメディアンに転職した。コメディアンではない、ホメディアンだ。他人をべた褒めするのが仕事である。転職したのは半年前だ。だから僕は最近キャバクラかホストクラブに呼ばれてキャストが困っているときにお客さんを褒める。「センスのいい服ですね、何処で買ったんですか?」「目が綺麗ですね。その輝きはダイヤモンドも負けますよ」「指が美しいですね。手のモデルですか?」褒められて悪い気がする人はあまりいない。  今日は駅前のビルに入ったキャバクラに呼ばれている。僕はお気に入りのブランドもののネクタイをして高いスーツに身を包んだ。キャバクラに行くと自然と女の子をべた褒めしてしまって惚れらることがよくある。習慣なので口が自動的に開いてしまうのだ。今、付き合っている彼女はキャバクラの女の子ではない。都内で働く事務の職員だ。名前をあかりちゃんという。付き合って3ケ月だが、唇の形があひるみたいで可愛い。これはホメディアンとして言ってるんじゃなくて本当のことだ。  キャバクラに入るとお尻の大きなドレスの女の子がウーロン茶を出してくれた。まだ、オープン前なのでみんな待機席で暇そうにしている。 「飯塚さん、今度プライベートで飲みにおいでよ」 「そんな御金無いですよ、時給で2000円くらいしか貰ってないんだよ」  2000円は僕の年齢では高い時給だが、平均すると一日に3時間くらいしか働けない。将来的にはお笑いの前座などをしてお客さんを褒め倒す仕事がしたいが、まだまだ仕事にありつけていないのだ。
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