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篤崇は見聞を命じられたにも関わらず、何故か不毛の那須野が原の開墾に参加していた。じりじりと照りつける日光の中、何度も何度も鋤を振り下ろす。額に光る汗を拭い、水のない蛇尾川をじっと眺める。京都は二条城の玉砂利を思い起こせるぐらいに敷き詰められた石の川を見て、この川に水が流れなくては何も出来ないし、この辺りを農場にするのは無理だと悟った。まずは那須野が原中央に水を流すことが先決だと思うのであった。
こうして開墾し大地を鋤で掘ったところで、水が無くては話にならない。篤崇は水を希求した。心なしか体も乾きを覚え、口の中に唾液の水分すらも感じなくなっていた。
うだるような熱さのせいか、陽炎で周りが揺らめいて見える。心なしか水がないはずの蛇尾川から湯が立ち昇って見えるような感じがした。陽炎か、蜃気楼か、はたまた幻か。覚束ない足で川に足を踏み入れて聞こえるは砂利を踏みしめる音、
なんだ、やっぱり水なんかないじゃないか。しっかりしなくてはいけない。このような幻を見たと西郷どん(従道)に言えばチェストで頭をカチ割られてしまう。篤崇は、ぱんぱんと力強く自らの両頬を叩く。この痛みはいい気付けになった。と、気合を入れ直した瞬間に両足首に冷たさを感じた。
まだ下らぬ幻を見ているのだろうかと、思った刹那、蛇尾川の上流より大海嘯を思わせる大波が真白くも蒼い水の牙を剥いているのが見えた。
あれだけの水が流れるとは…… 水神様も粋なことをしてくれるじゃないか。そう、考えた瞬間、篤崇はその大海嘯に呑まれ、川の流れに身を任せるに至った。意識を失った篤崇は流れに揺蕩う。流れ流れたどり着いた先は何処であるか……
篤崇は川の流れに乗った後、蛇尾川の縁にて目を覚ました。目を覚まして見た風景はやはり水のない石の川。あの大海嘯は暑さが見せた幻だったか。そう思ったのも束の間、篤崇は異常に気がついた。辺りの風景が先程までの不毛の大地と違って緑豊かなものに変わっていた。夢か現か幻か…… 篤崇は頭が混濁し、本調子でないながらも何処とも知れずに歩き始めた。その先には揺らめく陽炎が立ち込めているのだった。
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