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「大丈夫です。あたし、お酒強いので」
こいつはゼウスの腿から生まれたのだろうか。拓見は思わず笑いを堪えてしまった。
観光客向けの御土産で葡萄を模した髪飾りがあれば買ってやりたいと思うのであった。
「とりあえず、今日は私のどうしても行きたい場所に行ってから塒に行こう。君も疲れたろう」
「どうしても行きたい場所…… ですか?」
「ああ、西郷神社だ。鹿児島の祖父から一度手を合わせてこいと頼まれたものでね。鹿児島版オリュンポス十二神の一柱みたいなもので、薩摩藩の維新志士は皆神格化されている」
さながら桜島はオリュンポス山か。ふふふと京陽は軽く笑った。
「あれ? 西郷神社って鹿児島にあるんじゃ」
「そちらは南洲神社だ。今回は弟の従道を祀る神社の方に行くんだ」
「従道…… あれ? 弟さんは吉次郎って名前だったような。ドラマでみたんでうろ覚えなんですけど」
「吉次郎は次男だよ。従道は三男で、ずっと明治政府の高官をしていたんだ。かつては不毛の大地だった那須野が原の開拓にも開拓使長官として携わっている。政治家としても凄かったんだぞ、あだ名は小西郷だったんだ」
「へー、そうなんですか」
京陽は興味なさそうに窓の縁に肘を乗せ、窓の外から見える那須野が原の風景を眺めていた。
「海軍の元帥でな、日清・日露戦争の英雄とされているんだ。日本海軍の礎を築いた凄い人なんだぞ。彼がいなかったら日本は帝国主義に飲み込まれていたに違いない。人を見る目もあった『山本のやりたいようにやらせればよか。責任は取る』は名言だぞ。総理に近かったのに兄が逆賊だからって辞退したりとか、あの有名な西郷隆盛の肖像画の上半分は従道の顔をそのまま描いたとされている。エピソードには事欠かない人だ」
運転しながらも目をキラキラと輝かせながら語る拓見の姿を見て、京陽は少し「引いた」
自分の好きなことを語る子供のような感を覚えるのだった。
「なんか、語りますね。言っちゃあ悪いですけど、お兄さんに比べて目立たない人ですよね」
「ああ、確かにな。しかし、実績はある。日本を亡国の危機から救ったこともあった。彼がいなかったら今頃日本と言う国は姿形もないだろう。今から行くのはそんなお方を祀った神社なんだ」
「お墓…… みたいな感じですか?」
「ああ、本来のお墓は多磨霊園にあるのだけどな。西郷従道と共に開墾開拓した地元民が分社という形にして建立したものしたものになる」
「慕われていたんですね……」
「兄が逆賊であっても政府内でも白い目で見られることなく地位を上げられるぐらいだったからな。人当たりは良かったのだろう」
二人を乗せた車は加治屋町に入った。京陽は道中に立っていた電信柱の案内板に書かれていた『ここは加治屋町』の文字を見てそれを知る。そして、町として色々と建物があることに違和感を覚えた。
「ここ、元農場なんですよね? 西郷農場はもう残ってないんですか?」
「ああ、解体されたよ。今は農場に建てられていた神社しかもう残っていない」
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