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二人は駐車場に車を停め、西郷神社へと歩を進めた。
「この辺りは加治屋町と言うんだ」
「はい、先程電信柱で見ました」
「加治屋町と言う名前はな、西郷従道の生まれた薩摩藩の加治屋町からとってつけられたんだ」
「はぁ……」
京陽の眼前に西郷神社の全景が入る。首を動かすまでもなく見渡せるぐらいのあまり広くない森…… いや、林…… いや、木が一部に集まっているだけの場所と言った方がいいだろう。ヌマスギの群生地である。そこに僅かな盛土と石作りの灯籠二基に、注連縄のされた鳥居が一基、その向こうには石作りで彫刻のされた小さな本殿が鎮座していた。
「あの、お社様は?」
「鳥居の奥に見える小さな建物のようなものが見えるだろ? それが本殿だよ。神社だからといって宮大工が建てる立派な木造の本殿があるわけじゃないんだよ」
この周りの開拓に尽力し、日本を救ったとされた大人物を祀る神社の割には地味だな。そう思いながら京陽は鳥居に一礼し、西郷神社の神域へと足を踏み入れた。拓見もその後に着いていく。
二人は二拝二拍手一拝を行った。京陽は近くで見る石作りの本殿の重厚さと、丁寧で凝った彫刻に驚く。海軍元帥であったことを鑑みてか社殿は逆巻く波の彫刻の上に建てられている。社殿の四方には今にも吠えそうなぐらいに立派な唐獅子が彫刻され、社殿表面の柱には登り龍と下り龍が社殿を守るような勇壮さを見せながら彫刻されており、社殿の屋根の上には、身を逆巻く波に包んだ霊亀か玄武を思わせる亀が彫刻されていた。
他に気になることと言えば、あまり手入れがされていないのか、所々が苔生していた。
他の神社に比べると大きな本殿も無いし、手入れもされていない。京陽は忍びなさと侘び寂びを感じながら踵を返した。
すると、鳥居の遙か先、先程まで自分たちが歩いていた道に人が倒れているのが見えた。二人は慌てて倒れている者の元へと向かう。倒れているのは男であった。中肉中背ながらに背の高い壮年の男、体格はガッチリとしている。服装は見慣れないぼろ布とかしか思えない麻布の上下、拓見はその服装に既視感を覚えていた。
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