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ショート・フィルムのコンペの結果が出たのは年を越した一月の下旬だった。「フィルム工房TSUKUMI」の作品が第一位を獲得した。あの日撮影したお宝を掘り出すシーンは使わなかったが、百年前の実際の日記の存在はフィルムに説得力をもたらし、物語を紡ぎ出すことに成功した。作品の中に使われることはなかったが、百年前の子どもたちが残した品々が土の中から見つかったということも作品の話題作りに大きく寄与した。もっともその真実について津久見は明らかにしなかった。
一月の最後の日曜日の夜、僕は呼び出されて津久見の事務所へ行った。優勝した作品を見せてくれるという。一月の末にしては珍しく暖かな夜だった。
オープニングシーンはあの時の老婦人役の女優が出ている。白い髪を上品に結い上げ、あの時と同じレース飾りの付いたアンティークなドレスをまとっている。老婦人が優雅な手つきで箱を開く。文箱ではなくてアールヌーボー風の模様を施した西洋アンティークの木箱である。蓋が開くと、そこには広々とした草原が画面いっぱいに広がり、草花が咲き乱れている。遠くには青木別邸が白く小さく見えている。カメラはひとときアザミ、リンドウ、キキョウ、オミナエシなどの花々の上を遊んだあと青木別邸に向かう。カメラが青木別邸を画面いっぱいにとらえてさらに窓から入り込むようにして室内に移る。壁にはたくさんのセピア色の写真が飾られている。そのうちの一枚をとらえる。家族の写真だ。一人の少女が画面の中央に映し出される。麦わら帽子を手で軽くおさえ、こちらを見て微笑んでいる。そこに「夏色の日ごよみ」というタイトルが風に運ばれるようにして現われ、「華族令嬢の那須日記」というサブタイトルが添えられた。
「悪くないな」
隣で脚を組んで座っている津久見に声をかけた。
「嫁さんが考えた」
はにかみながら津久見が答えた。
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