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序章<プロローグ>
暑すぎる。
南に面した窓のある自室にて、僕、小学五年生の池森康大(いけもり やすだい)は、机に突っ伏した。
不幸にも、机の上に丁度広げていたノートが汗で濡れる。
ああ神よ、あなたはこの暑さを使って人類に何をしようというのか。
僕があなたに悪口でも言ったのか。
無害な人間を暑さで戒めるのはあまりにもひどくはないか。
いや、確かにお供えをサボったよ?
自分の物をあげるなんて嫌だって言ったよ?
冬はクリスマスを祝って、年末は神社で祈ってるよ?
テスト前には神頼みしておきながら、今はこうして文句を言ってるよ?
でもだからと言ってこれはない。
ずるい。
卑怯だ。
気温なんて、人間では太刀打ちできないではないか。
ああ神よ、あなたはなぜにこんなひどい暑さをくらわせたのか。
よりにもよってクーラーがなく、窓が南側についたこの部屋で。
冬は窓の側に張り付いている僕も、今太陽が暑い日差しを浴びせている窓にくっつく気はしない。
ああ神よ……おい待て、もう言う事がないぞ。
いやいやちょっと待ちなさい、気温の神様よ待ってくだされ。
まだ言いたいことは山ほどある。
例えば去年僕が片思い相手の女の子にフラれた件について。
ダメだ、話が脱線してしまった。
何かないか!
気温についての文句がこれで終わるわけはなかろう!
そうだ、この暑さは常に神様のせいなのだ。
この調子ですべてを押し付けてしまえないものだろうか。
なんて、罰当たりかつくだらないことを考えていた、それはある暑すぎる夏の事。
夏休み初盤で、さっさと片付けて遊ぼうと頭では考えていても宿題をする気も起きず、母さんと妹は二人で買い物中で家には僕一人だけという、七月と八月の境目がそろそろ訪れようとしているある日。
インターフォンがピンポーンと勢いよく鳴る音が、客の来訪を告げた。
そしてその日訪れた『客』は、僕の夏休みをいとも簡単にひっくり返したのだ。
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