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「む?むむむ?むむむむむ?」
ハムスターは振り返り、ジロジロと僕を眺める。
そして、満足そうにうなずいた。
「これはいかにも平凡な男子でござるな!よかろう、依頼を聞いてやろうではないか!」
うわー……。
不審者の罠ではなかったけど、ヤバいことになっちゃったぞこれ……。
「ほうほう、なるほど。これが未来の邸宅か……ホー……。」
よくわからないが、ハムスターは僕の家の中を覗き込み、見とれている様子だ。
未来?
「あのー、すみませんけど、ひょっとしてタイムスリップしてきた人だったりします?」
「たいむすりっぷ?なんやそれ。聞いたこともあらへんな。」
関西弁と侍語の入れ替わりに、何か法則はあるのだろうか?
「いや、その、過去から来ていたりします?」
「お見事や!そう、拙者は過去からやってきた者やけ。いやいや、拙者が過去から来たと見抜くとは見かけによらず鋭い様子。」
いや、未来の家とか言われたら誰でも想像するから。
というか、見かけによらずってなんだよ!
「実は拙者、およそ五百年ほど昔の世界よりやってきた。」
五百年!?
えーっと、確か五百年前と言うと……。
僕は頭の中の引き出しをひっくり返し、記憶をたどる。
「____戦国時代?」
「そうさな、絶えず戦が行われ、多くの死者が出た。そして、恐ろしきことには、それらが日常の一部になってしまい、またそのことにほとんどの者が疑問を持たなかった。信じられないほどの勢いで人が死んでいったと聞く。拙者も一度だけ戦場に出たが、それはそれはひどいもの。今でも瞼を閉じる度、悪夢のようにあの光景がよみがえってくるのでござる。」
……それはひどいが、ハムスターが言っても説得力ないな。
って、
「戦国時代なのに、一回しか戦場に出なかったって事か!?」
「左様。拙者がいた村は戦からは程遠く、呑気で平和。兵も村にまでは踏み入って来んでな。村に踏み入ったよそ者は命を落とすと言い伝えがあったためであろう。それに実際、当時一人の兵士が村に迷い込み、奇妙な死を遂げていた。それで恐れられたのであろうな。まあともかく村は、同じ国とは思えぬほど平穏な日常を過ごしていた。村の外は大変危険であったが、もしもの時生き延びるためには戦乱も知っておくべきだとの考えのもと、一度だけ戦場へ向かったのだが、あまりの悲惨さと息苦しさに耐え切れなくなり、それ以来一度も戦を見ぬまま、拙者は現在こうして未来の世にいるのでござる。」
未来に来た方法と理由という肝心な二つがまだ説明されていないが、無理やり納得することにしよう。
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