【水曜日】

2/2
前へ
/32ページ
次へ
 その日、健太は1日中、ひかりのことを考えていた。連絡が返ってこない。しかも未読スルーのまま。その事実に健太はひとりため息をついていた。そして気がついたら、6時間目になっていた。  6時間目は委員会の集まり。  健太は場所を確認しようと、掲示に近付くが、その前に相沢が声をかけてきた。 「ほら、行くよ」  相沢がそういって、健太を少し上目づかいで見つめた。健太は黙ってうなずくと、相沢の後ろをついて、図書室まで向かった。相沢と一緒にいるのは癪だったが、ひとりでは絶対にたどり着けないので、おあいこだと思った。  図書室にはすでに他のクラス委員も集まっていた。相沢と健太は、1-1組と書かれてある席に座った。チャイムが鳴る。 「お集まりいただき、ありがとうございます」  そう、先生が言った。 「今日は、図書委員の活動内容と、分担決め、残り時間で書架の整理を行っていただきます」  そういうと、他の生徒にバトンタッチし、その生徒が主体となり、活動内容を説明していった。  健太はその話をまったくといっていいほど聞いていなかった。  図書室に入るなんて、久しぶりだ、そう思いながら、ぐるぐると色々なところに視線を移していた。小学校のころは、ひかりとよく図書室にいって本を読んだ、いや、健太はマンガしか読んでいないが。中学校になると、ひかりから誘われることはなくなり、図書室に足を踏み入れる機会がなくなっていた。  ひかりと一緒にいたころは、毎日健ちゃん、健ちゃんと声をかけられていたのに、今はこのざまか。そんな自分がふがいなく、健太は少し涙目になっていた。ひかりからの返信が来ない。それが健太の心に大きな傷を与えていた。 「では、これからは書架の整理に移ります」 「ほら、いくよ」  相沢につつかれ、健太ははっと我に返った。 「あたしたちはこっち」  健太は相沢の後ろについていった。 「あんた全然話聞いてなかったでしょ」 「えっ」  相沢の指摘に思わず図星の顔をしてしまう。   「まさか、あたしのおっぱいに見とれてたわけじゃないでしょうね」  相沢はそういうと、自分の胸を腕で覆った。 「いや、そういうわけではない」  健太はそれを一蹴すると、書架整理に取り掛かった。  といっても、何をしていいのかさっぱりわからなかった。  なので、なんとなく、本を手に取り、ぺらぺらとめくっていった。  その紙の感触が久しぶりで、健太はひかりと過ごした日々を思い出していた。そして、少しだけ笑顔になった。健太は黙って、本のページをめくっていった。  そんな健太の様子を相沢が、横でちらちらと見ていた。  本に目を落とす健太の顔が笑っている。その笑顔に、相沢の心臓は大きく音を立てた。それに思わず顔を赤らめた。そして顔を手で覆った。  なんて、かっこいいんだろう。  健太に対し、そんな感情が浮かぶなんて。相沢は自分で自分を責めつつ、けれどもちらちらと健太の顔を見続けた。  健太は持っていた本を棚に戻すと、また別の本を手に取り、ぺらぺらとめくり始めた。ひかりのことを思いながら。  相沢はいったん自分を落ち着けるため、健太から離れた場所で書架整理を始めた。  図書委員たちがどんどんと本を片づけていく。健太はその中でひとり、ぺらぺらと本をめくり続けていた。そして本を棚に戻し、別の本を取る。そして本を棚に戻し、別の本を取るを繰り返していた。 「あっ」  本を取ろうとした瞬間に、別の人と手が重なり合った。  健太が手を伸ばしてきた人物のほうに目をやった。  そして、目があった。  手がふれあっていた女は、頬を真っ赤にそめ、健太の方を見つめていた。  口が少し開いている。そして、我に返ったのか、 「ごめんなさい」と声を出し、あわてて手をひっこめた。  突然のことで、健太はどうしたらいいのかわからない。 「あの、そのっ」  女はうつむきながら、もごもごといった  こういうとき、健太はどうしたらいいのかわからない。 「ごめんなさい」  女は素早く頭を下げると、あわてて健太とは反対の方向に走り出した。 「きゃっ」  走り去った先に別の図書委員がいた。ぶつかりそうになり、女はあわてて頭を下げると、健太のほうにまた走ってきた。そして、 「きゃっ」  健太にぶつかった。  女はその衝撃で、はね返り、尻餅をついた。 「いたいっ」 「大丈夫」  そういって手を差し伸べた健太と目があった。それに女は顔を赤らめ、 「ごめんなさい」というと、女はあわてて立ち上がり、また逆方向に走り始めた。今度は上手く通り抜けられたようだった。 「なんだったんだろう」  健太はひとりつぶやいた。そして思った。あれがひかりだったらいいのに、と。 「じゃあ、さ・よ・う・な・ら」  図書室を出た相沢が健太にそういった。そして校門に向かってスタスタとあるき始めた。 「ついてこないでよね」  健太の方を振りかえり、相沢がそういった。しかし、健太はその後を追っていく。  相沢はちらちらと後ろを振りかえりながら、健太が自分についてきていることを確認した。そして、どうしてついてくるのよ、そう思いながら顔を赤らめた。  そして、意を決し、健太に話しかけた。 「ついてこないでって言ってるでしょ」 「いや、ついていってるわけじゃない」 「ついてきてるじゃない」 「俺の家がこっちなだけだ」 「あら、健太。おかえりなさい」  すでに健太の家の前まで到着していた。健太の家の前に母親が立っていた。 「あら、その子は?」  母親がそう問いかけた。 「クラスメイトの」  健太がそういうと、 「もしかして、相沢さん?」 「えっ」  母親のことばに、健太は驚いた。どうして名前を知っているのか。  相沢はにらみつけるように健太の顔を見た。そして、 「あんたんちってここ?」と健太の家を指さした。 「うん」  そういって、健太は自宅を指さした。 「お隣の相沢さんでしょう?」  母親が笑顔でそう言った。 「お・と・な・り・の、あいざわさん」  健太は思わずそのことばを復唱してしまう。 「そうです、お隣の相沢です」 相沢悠希は隣の家に住んでいた。
/32ページ

最初のコメントを投稿しよう!

6人が本棚に入れています
本棚に追加