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03:プライドとプライベートは非なるもの
どのくらい時間が経っただろう。
朔がおもむろに口を開き、語り始める。
「…………悪かった、小沢」
これまた消え入りそうな小さな声で、朔はいずみに詫びを入れる。
確かに、朔が発する声のボリュームはとても小さかった。だが、しっかりと芯のある声で詫びたことには大きな価値があると言えるだろう。
しかし、詫びが入っただけで即解決にならないのが現実でもある。物語のように仲直りしただけで自動的にハッピーエンドが約束されることなんて、現実はまずあり得ないだろう。
一般的に詫びる行為のあるなしを最重要視するケースは多いし、実際に詫びのあるなしは極めて大事な要素になるケースは多い。しかし、詫びる行為以上にこれから先の当事者間の謂わば【生き方に関する擦り合わせ】を行う行為の方が遥か骨が折れる作業でもあり、肝要な要素と言えるのではないだろうか。
「……」
だからこそ、いずみは朔から発せられた詫びの言葉に対する対応を迷っていた。それは朔が発する言葉の真意を測りかねていたからに他ならない。
ただただやり過ごすための言葉に過ぎないのか。それとも……。
課題をこなす上での学業上のパートナーである以上、最低限の意思疎通の必要性をしっかりと理解した上での言葉なのか。
いずみが考えあぐねている様子に気付いた朔は、おもむろに反省の言葉を重ねてくる。
「確かに俺たち学生の本分は勉強だ。小沢の言う通りだと思う」
「……」
「考えなしの行動をして、本当にごめん」
「…………あ、えーっと。分かってくれれば、それでいいんだけど」
今朝からの横柄にも見えた仏頂面はどこへ行ったのか。しおらしいくらい素直な反省の言葉を並べてくる朔に、いずみも呆気に取られる。
確かにいずみとしては、課題を滞りなく進ませるため、無駄な争いごとを避けるべく奮闘していた。その点のみスポットを当てれば、これ以上ない見事な着地点が決まったと言えるだろう。だが、それにも関わらず、燻る思いが残っている事実にいずみは気付き困惑する。
「(もしかして、課題ありきに見せかけたフェイクだったりするのだろうか……)」
そう思えば、いずみ自身も合点がいく。
確かに、いずみと朔の関係上、第一重要任務は課題をスムーズにこなすことだ。とは言え、課題がスムーズに済めば全て良しとは思えない現実も、いずみはキチンと気付いていた。
「(確かに課題が滞ることに困っているけど、根本的な問題になっているのは今まで良好だった関係が崩壊している事実ではないだろうか……)」
ならば、実際のところ、課題に関する態度のみ朔を糾弾するのは選択ミスだ。ここで糾弾すべき、真の事柄は……。
「…………江口くん」
「ん? レポートか? レポートなら、小沢の案を元に「違う、そうじゃない」
「……え?」
「あの、……私が気に触ることをしたのならごめんなさい」
「は?」
「課題をきちんとこなすべきだと、課題の案件くらいはキチンと意思疎通をして欲しいと確かに言った……。けど、これって間違っていないけど、間違っていたなと思ったの」
何ともぼやけた会話を繰り広げているというのに、朔は話の全体像を素早く把握したらしい。
苦笑いしつつ、曖昧にボカシにかかってくる。
「んー……。相変わらず、小沢の話は面倒だなあ……」
「そうだね。でも、江口くんも本当は分かっているよね? 課題の対応に関してさえ譲歩すれば、核心部分に触れることなく、嵐が過ぎていく事実も」
「っ!!」
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