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04:損得勘定の先
いずみの言葉に、朔は激しい動揺を見せる。
そんな朔の反応を見たいずみはより一層、確信を深めていく。
「江口くん、天秤に掛けたでしょ? 課題の対応を譲歩する方が遥かに江口くんにとって、メリットがあるって」
「…………」
「ずっと私を無視し続けた結果、核心を詮索されることとよりも」
「……………………」
いずみの追求を受け、朔は再び押し黙る。
肯定という言葉こそ使わないが、朔の態度は肯定しているとしか見えない。
そのことはいずみ自身も感じているらしい。だが、敢えて朔の沈黙に付き合う選択をする。
「(ていうか、これ。ハッキリ言って、終わりが分からない……)」
事実、いずみは朔の不誠実な対応に腹を立てていた。
確かに、ペアとして共に課題を取り組むための意思疎通さえ困難な今朝の状況では、いずみのジャッジは妥当と言えるだろう。ここでいずみが【何かしらのアクションを起こした】こと自体を責め立てるなど、お門違いも甚だしい。とは言え、いずみ自身もまた反省すべき点があったこともまた一つの事実だろう。
実際、いずみが苛立ちに任せて、朔へ糾弾したのは悪手だったと言わざるを得ない。理由はいずみ自身が語っている通り、朔が起こした行動の根底に渦巻くフラストレーションの解決には一切ならないからだ。
確かに、ペアとして課題をこなすことが多い関係とは言え、そこまで義理立てをする必要性は全くない。課題をこなすペアである事実を第一に考えるならば、いずみの初動は目的に沿った無駄の一切ない修正案と言っていいだろう。
とは言え、入学以来ずっと共に課題をこなしていれば、課題だけスムーズに済めば良いと単純に割り切ることも難しいものだ。
今日のような建物調査や構造計算実験に共同設計……。様々な作業を共にこなしてきた謂わば同士と言った方が相応しい間柄で、損得勘定のみで語るなど、あまりに野暮ではないだろうか。
勿論、野暮かどうかは当事者が決めること。
とは言え、少なくともいずみにとって、朔という人物は損得勘定だけで割り切ることは出来ない存在になっていた。
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