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05:握らずとも感じる場合もあるわけで
簡単に斬り捨てることが出来ない相手とは言え、単純に寄り添える相手ではないこともまた事実。そんなある種のビジネスライクでドライな間柄でありつつ、良きパートナーとしての側面も持ち合わせた一種独特な関係であることが、この度ふたりの関係をややこしくさせた一番の要因と言っていいだろう。
「……小沢。お前、どこまで気付いているんだ?」
「へ?」
「だから、何か【核心のカケラ】でも握っているのか?」
「核心のカケラ……」
朔の【核心のカケラ】という表現に、いずみは唸り声をあげてしまう。
それは朔のいう【核心のカケラ】に何一つ気付いていないからというわけではない。朔の表現する【核心のカケラ】という言葉の美しさに痺れたからに他ならなかった。
「で、どうなんだ?」
いずみの唸り声を受け、何かを悟っていると朔が勘違いしていることに気付いたいずみが、慌てて語り始める。
「ハッキリ言って、ない」
「ない? ……本当に?」
「ないよ、ただ表現が相変わらず江口くんらしく綺麗だなとは思ったけど」
「? 何が?」
「【核心のカケラ】ってやつ」
そう言って、いずみは朔が発言した言葉を復唱してみる。すると……。
「……わざわざ言わなくていいっ」
「何よ。聞いて来たのは江口くんでしょ?」
朔が自分自身の発言に恥じらいを見せる中、いずみはふてくされながら言葉を続けていく。
「とは言え、学外活動がキーなのかなとは薄々思っている」
「……っ」
いずみの発言を聞いた朔の肩がビクリと震える。
明らかに動揺している朔に、いずみ自身もまた確信を深める。
「今まで校内での活動ではキチンと意思疎通が出来ていたにも関わらず、学外活動について打ち合わせするとあからさまに嫌悪感丸出しだったし」
「……」
「今朝の対応も……まあ、ある意味予想はしていたけれどさ」
「…………」
「だけど、予想しているからと言って、許容できるかはまた別の問題なわけで」
「…………」
「だから、我慢できなくなって江口くんに物申したわけなんだけど」
「……………………んだ」
いずみが語る言葉を遮ることなく、静かに聞いた後。朔はそっと話を切り出してくる。
「え?」
「そこまで分かっていたんだ……。じゃあ、もう下手な小細工はしないよ。とりあえず、縁側にでも行こうか。ここでいつまでも話すのも、邪魔になりかねないし」
「あ、そう……だね」
朔に言われて、資料の前で押し問答をしていたことにいずみは気付く。
他の入場者の邪魔になりかねない場所である事実がある以上、速やかに移動するべきだろう。そう考えたいずみは素直に朔の提案に乗ることにした。
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