06:攻防戦は縁側で

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06:攻防戦は縁側で

 縁側に敷かれた赤カーペットが、紅葉の色合いを更に引き立てる。  見渡す限り、赤く染まる景色……みたいな。  そんな美しい風景に溶け込むように、不意に座る朔から少しだけ離れて、いずみも座る。  さっきまで険悪ムードであった事実がある以上、これから会話されると理解はしても朔の側に座るなんて、いずみには無理だった。尤も、険悪ムードにならずとも必要以上にベタつく距離感で座ろうといずみが思うことなどないのだが……。 「ところで、小沢。どうして旧塩原御用邸新御座所の提案を受け入れたの?」 「え、それをここで聞いちゃうかなあ」  提出するレポートの題材となる建物はペアごとに決定することとなっていた。  そんな中、旧塩原御用邸新御座所を提案したのは朔だった。  勿論、いずみにも提案したい場所がなかったわけではなかったが、旧塩原御用邸新御座所も魅力的な建物であると思っていたからこそ反対などしようとさえ思わなかった。……と言えば、聞こえが良い。だが、ぶっちゃけてしまえば、ペアで学外活動を行うと知った途端に不機嫌になった朔へ対等に意見する気が湧かなかったという点は無視できない要素と言えるだろう。  だからこそ、いずみは朔の提案を受け入れた当時の気持ちを語ることが憚られた。 「うん、聞く。聞いちゃうよ」 「てか、旧塩原御用邸新御座所で本当は旧塩原御用邸新御座所なんて嫌だったとか言われたらどうするつもりなのよ」  いずみは小声で朔を叱責しつつ、他の入場者を横目で見遣る。 「ていうか、小沢の場合。そういうケースは心配ないだろ。だいたいどんな建物であれ、学べるところを見つけるタイプなんだし」  真顔でシレッと褒める技法というものは一朝一夕で確立できるものではない。  ましてや、それをナチュラルに発言するとなると、更に高度な技術が要求されると言えるだろう。しかも、キチンと事実に即した言動を褒められて、嫌な気持ちになる人などいない。 「……っ!!」  本当に賢い人は発言までスマートなのかと感心しつつ、いずみは赤くなりゆく顔色を隠すべく視線を庭の紅葉へ移す。そんないずみの行動も気に留めることなく、朔は話を続けてゆく。 「まあ、だからこそ、他にも行きたいところがあったと思うんだけど……違うかな?」 「…………」  ここまで読み取られていたと知り、いずみは何とも複雑な気持ちになる。それはお互いに把握していることは大量にあるにも関わらず、ズレまくっている現状を憂いてか。はたまた……。そんなことをうっすらぼんやり考えつつ、いずみも覚悟を決めて語ることにした。
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