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08:切り札は気付いた瞬間、使うべき
「ところで、どうして俺がここを推したか分かった?」
「……え?」
朔が旧塩原御用邸新御座所を何故、提案したか……。
いずみは朔から、そう尋ねられるまで一切考えることはなかった。というよりも、考えようとさえ思っていなかったと言った方が正解だろう。朔から思いがけない質問を投げかけられ、いずみは困惑しつつ、答えを捻り出す。
「うーん……。江口くんの中で明治ブームが来た、とか?」
「なるほど。もうひと押し」
おっかなびっくり語るいずみとは対照的に、朔はしれっとした表情で無茶振りを続けていく。
「ええええ、もうひと押しとか言われても……。んー、じゃあ……。旧塩原御用邸新御座所だけ、見たことなかったからとか?」
「あー……、そう来たか」
なけなしの情報から紐解くいずみの予想を一刀両断する冷めた声色は、朔の御眼鏡にかなう答えではないことを否が応でも痛感する。
とは言え、なけなしの情報から紐解く予想なんてたかが知れているものだ。現にいずみ自身もお手上げ状態。だからこそ、朔に対してつい嫌味だって口に上ってしまうわけで……。
「てか、無理だよ。そんなピンポイントな答えを引き出すには情報が圧倒的に足りなさ過ぎる!!」
「……ふーん。じゃあ、どんな情報があれば小沢は答えを引き出すことが出来るの?」
「え……?」
いずみ自身、朔の切り返しは想定外中の想定外。
切り返してくることは勿論、真剣なまなざしで向き合ってくることなど、想像していなかった。
「圧倒的に足りない情報が原因だと小沢が言ったんだろ。なら、足りるほどの情報を開示する。それでいいだろ?」
「えー……、そういう問題……? なの、か……な?」
ただのボヤキが大仰なことに発展していく感じに、いずみは動じてしまう。
そんないずみの動揺を感じ取りつつ、朔は一気に攻めていく。
「そういう問題だろ。それで? 何、聞きたい?」
尤も、先ほどまでの険悪な雰囲気とは打って変わり、今まで通りの軽口で尋ねてくるものだから、傍目には攻撃と認識されることは一切ないだろう。
とは言え、いずみだって馬鹿ではない。
どちらかと言えば単純な人間かも知れないが、朔が何か企てていることくらい察する能力は十分に秘めている。
「…………(たぬきときつねの化かし合い、かしら?)」
ならば、たぬきは朔で、きつねがいずみか。それとも、たぬきがいずみで、きつねが朔か。そんな取り留めのないことをいずみは考えながら、最適解を【たぬきときつねの馬鹿試合】と定めたいずみの行動は早かった。
「(同じ馬鹿なら馬鹿らしくあれ、なんてね)」
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