サンタがパパにキスをした

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「ねえねえ、今日さぁ、ご飯行かない? 美味しいスープカレーのお店見つけちゃたのー」  一日の業務を終えると、テンション高めのキャサリンに誘われた。 「ああ、ごめん。今日はこれから鍼行かなきゃいけないから」 「えー! またぁ!? あんた週に何回鍼行くのよ。まさか、鍼じゃないもんまでさして(、、、)るんじゃないでしょうね?」 「いやーん。バレたぁ? って。鍼以外の予定があったら、こんなに足繁く通うわけないでしょうが」  悲しいかな、今は単なる患者と先生なのだよ。それ以上の関係はない。だから困ってるのに。 「そんなに通ってんだったらあんたもいい加減、食事くらい誘ったらどうなの? 星奈(せな)って案外奥手よね。アタシだったらあんな顔面国宝とっくに食べてるわ」 「そこまで言うなら、どうやって食べるとこまで持っていけばいいのか教えてよね」 「なあに言っちゃってんのかしら。男を食べるのはあんたの方が得意でしょうが。いつものようにやりゃあいいのよ」  ニヤリと笑うこの男……いや女? キャサリンこと玉井正蔵(しょうぞう)は、名前だけ見るとダンディズムの塊って感じだけど、実際は今でいうところの ”オネエ” だ。本人曰く、自分は男も女も超越した特別な存在らしいのだけど。  見た目も特に女装しているわけでもないし、髪だって爪だって伸ばしているわけじゃないけれど、パッと見でオネエと分かってしまうオーラみたいなものがムンムンに出ている。  最初はおとなしい感じで女の子みたいに可愛い顔をした小柄な男性だと思っていたけれど、入社一発目の自己紹介で自分は玉井正蔵ではなくキャサリンですと声高らかに宣言した。  校正や校閲だけを専門としているうちの会社は、まだ新しく立ち上げたばかりで規模もそんなに大きくはない。かなり自由な社風で社長もアフロヘアだったりするので、みんなキャサリンの自己紹介を聞いても大して驚かずにすんなり受け入れた。  デスクがたまたま隣同士だったこともあり、自然と仲良くなった。今では何でも相談できる親友だ。
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