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「いつものようになんて、人聞き悪いこと言わないでよね。入社してから、わたしの浮いた話聞いたことある?」
「あら、ないわね。ウケるー」
全然面白くないし!
自分のことを特別奥手だとは思っていないけれど、さすがに鍼治療に通っている整体院の先生にどうやってアプローチしたらいいのか、考えあぐねているところはある。
っていうか、先生を前にすると緊張して何も言えなくなっちゃうんだよねぇ。
こんな感じ、本当に久しぶりだ。
わたくし、舞沢星奈は ”ひろき整体院” の広木聖也先生に恋をしているのです。
愛しの広木先生と出会ったのは、会社の近くにある整体院だった。
日々、校正の仕事でパソコンやゲラ(印刷前に誤字脱字などをチャックするための校正刷りのこと)と睨めっこしているわたしは、とにかく首と肩の凝りが凄まじく、放っておくとめまいがして立てなくなってしまうので、疲れが溜まったと感じたらすぐに鍼やマッサージを受けて凝りを解すようにしている。
その日も、急な頭痛に襲われて、これは今日のうちに何とかせねばと思ったのだけれど、行きつけの整体院の予約がいっぱいでどう頑張ってもねじ込めなかった。仕方なく、近所にどこかないかと探したところで『ひろき整体院』を見つけた。
案外、当たり外れが多いので、あまり知らないところは行きたくないんだよなぁと思いつつ、受付を済ませて個室で待っていたわたしは先生が入ってきた途端、心の中で思わずうひょーと叫んでいた。多分、顔もうひょーって形になっていたと思う。
一言で言うのなら『垂涎の美丈夫』でございましようか。
とにかく芸術的で均整のとれた、優れた顔面をなさっていたのです。
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