詩と火

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 何故この原野を拓くのか?  低く生える無数の草々に問うた。  答えはなかった。  何故この原野を拓くのか?  我々を拒むかのように荒れている地に問うた。  答えはなかった。  何故この原野を拓くのか?  無慈悲なる蒼さを誇る天に問うた。  答えはなかった。  何故この原野を拓くのか?  眼の前に立つ父の背に問うた。  人の為だ。  父は答えた。  これからここに住む人々の為に、ここを住みやすい場所にしなければならぬのだ。だからこの原野を拓くのだ。開墾するのだ。  原野に謝罪するかの如き低い声で、父はそう言った。  草は何も言わなかった。  地は何も言わなかった。  天は何も言わなかった。  ただ父だけが、答えを口にした。  人々の営みを繋げていくのだ。  先へ、先へと。  どこかとても遠いところを、目では見えない場所を見据えて、父はそう言った。  そして父は、開墾を始めた。  草を抜き、木を切り倒し、土を耕し、天を仰いで汗を流した。  私はその背を眺めていた。  父を巨大なる火の、巨大なる塊の如き存在であるかのように感じた。  その火が生み出すものを、先にあるものを見ようとして……私はただただ、父の背を眺めていた。
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