詩と火

4/14
前へ
/14ページ
次へ
 はたと、手が止まった。 「私は自由になりたいのか?」  この農場を離れたいと思っているのか?  開墾作業から逃げ出したいと思っているのか? 「……」  まあ正直なところ、今の仕事が自分に向いているかどうか問われれば、向いていないと答えるところではある。  それでもそれなりに必要な人手として役に立っているとは思うが、父には及ばない。  ここでの作業の適正は父の方が高い。  私ではない。    しかし、これは世の為、人々の為になることである。  開墾すれば人が住めるようになる。  開墾の中途でも、人を雇っているので、人助けになっている。  そうやって助け合いながらことを進めれば、ここは人の住める土地になる。    とはいえ——原初の人々は森に住んでいたというではないか?  現代の人々は森に住まず、街に住む。  街とは何か?  それは人が住むところである。  人が住めば街か?  ではここも街と言えるではないか?  人はいる。暮らしている。  否、これは仕事である。  人々の営み。その真実的なものではない。  営みとは何か?  暮らし、働き、子を為し、社会を作る。  ここにそれはないのか?  ……無い。  まだない。  ここには仕事しかない。  今は、まだ。 「……」    書かずとも、頭の中では問答が続いている。  これが瞑想とでもいうものなのかとぼんやりと思うでもなく思う。  答えのない問い——いや、違う。これは私が問いを生み出しているだけであって、実際のところ必要な問いは一つだけだ。  私はどうしたいのか?  この一つの問いの中に全てがある。  ここにいるべきか、出るべきか。  仕事をやめるべきか、続けるべきか。  今考えるべきはそういうことである。  だから、私は鉛筆を置いて事務所の外に出た。  今日は休みだというのに、開墾作業を続けている父を探す為に。
/14ページ

最初のコメントを投稿しよう!

5人が本棚に入れています
本棚に追加