詩と火

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 父は火である。  激情にて全てを燃やし尽くす存在……火というとそのような印象を与えてしまうが、私の脳裏に浮かんだのはそんなものではない。  私は火を恐ろしいものとして定義しない。  火は安心をもたらすものである。  かつて猿は落雷によって発生した火に集まり、外敵の多き夜を乗り切ったという。  つまりはそういうことである。    父はプロメテウスである。  火をもたらす者。  人々のより良き生活を、営みを築かんとする者。  父の下に人々が集い、文明が生まれる。  まさしく神話の如く。  火であり、火をもたらす者である。    翻って、私は何なのか。  父を火に例えた私は何なのか。    水か。  なるほど、このような状況に身を委ねつつも、詩を書いているのだ。変幻自在に適応する姿はまさにそれに相応しい——などと思うほどに私はうぬぼれていない。  開墾する者。  詩を書く者。    そのどちらでもない者。  私はまだ半端な存在である。  完全になるべきである——とは思わない。  ただ、半端なままでいいのかという迷いがある。  だから、合理的な判断を下して欲しいと思っている。 「父上」  近づき、声を掛けた。  父が無言で、こちらを振り向いた。  額には玉のような汗が無数に浮かんでいた。  自らの発する熱で、蒸気が見えそうだなと、私は思った。
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