プロローグ

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 大きな目でこちらを(うかが)うようにしながら白い歯をむき出しにして笑ったような顔を見せている客の背丈は、約1メートル。  手が床に届きそうなほどに長く、全身に黒い毛が生えている。 (・・・・・・チンパンジー!)   どう見ても本物のチンパンジーだ。(けもの)特有の臭いが室内に漂う。 (動物園から逃げたのか?)  真二は混乱した。唐突に現れた類人猿をどのように扱うべきか?  二足歩行でゆっくりと近づいてくるそいつから目を逸らさずに、真二は静かに尻を持ち上げて椅子から立ち上がる。  腰の警棒に右手を添え、机を挟んで対象と対峙しながら考えた。 (どうして交番に? 弁当につられた? 扉は閉まっていたのに・・・・・・嗅覚が鋭い? たしかに、立派な鼻の穴だ・・・・・・)  そんな些末なことを気にしている場合ではない。真二は現実的なプランを練る。 (ニンジンは食べる? これを投げて、興味を示したらその隙に扉を閉める・・・・・・外から鍵・・・・・・動物園の管理事務所に連絡・・・・・・あっ!)  真二の思考は中断された。四肢を使って俊敏に動いたそいつが、机の上に飛び乗ってきたからだ。  身長の割に体重はそこそこあるのだろう、天板が(きし)む。  思わず一歩後退した真二を威嚇しているのか、そいつは口を大きくあけて犬歯を見せながら左腕を伸ばしてきた。その動きは攻撃にしては緩慢であったので、真二は手の先を注視するにとどめた。 (どうするつもりだ?)
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