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チンパンジーは真二の鼻先でその手を止めた。大きく手を伸ばした体勢のまま、皺だらけの口元をひん曲げるようにして、濡れたような瞳で真二を見つめている。
差し出された黒く長い指の間には、A5サイズの白い紙が二つ折りの状態で挟まっていた。
(これを・・・・・・取ればいいのか?)
そのとおりだと言わんばかりにチンパンジーはさらに指先を伸ばしてきた。恐るおそる右手で紙を引き抜くと、チンパンジーはおとなしくそれを手放した。
相手を充分に警戒しながら真二はその紙を開く。横罫線の入った便箋。全行にわたってびっしりと、黒のボールペンで書かれた文字らしきものが並んでいる。知らない言語で読むことはできない。
(チンパンジー語? いや、あり得ない・・・・・・)
唖然とする真二を嘲笑するかのように、チンパンジーはもう一度歯をむき出して見せた。身を翻して机から飛び下りると、そのまま猛スピードで交番を出ていく。
黒いその背中が見えなくなってから、ようやく我に返った真二は便箋を机に置いて、チンパンジーの後を追った。
(住宅街に逃がしたら大変だ)
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