プロローグ

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 交番を出ると装備したフラッシュライトを点けて前方を照らす。  チンパンジーは幅10メートルほどの道路を渡りきり、さらに走ってゆくところであった。  そいつは光から左に逃れたので、車も人も通らぬ道を斜めに渡った真二は、野毛山動物園の正門あたりにライトを向けた。  光の中にその後ろ姿を確認して門前へと急ぐ。汗ばんだ額を右手で拭いながら門にたどり着くと、チンパンジーが長い腕を器用に使って門を上り、向こう側に飛び降りるところだった。  闇に紛れてしまったその姿をライトで探したが見つからなかった。  とにかく、そいつが動物園の敷地内に戻ってくれたので、真二は呼吸を整え、携帯電話に登録済みの管理事務所にコールした。  普段であれば3、4回のコール音で当直の職員が電話を取るのだが、今晩に限っては、いくら鳴らしても応答がない。 (仮眠中か?)  腕時計を見ると午前2時をまわっていた。職員は午前零時の巡回を済ませ、一息ついているはずである。  通用門まで回ってチャイムを鳴らそうと歩き出した真二だが、すぐに足を止めた。  正門の向こう側が気になったのである。
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