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悟は自分の心の動きに翻弄された。何故今更そんなことを気にするのか? 精神を研ぎ澄まし目の前の任務に集中するべきだ。
気持ちを切り替えようと足を速めたが、前を行く高木のブーツを蹴ってしまった。
「おいっ」
「すまん」
「せっかくの格好いい登場が台無しだ」
「恰好付ける余裕があるのか?」
「もちろん。晴れ舞台を汚すなよ、割を食うのは俺なんだから」
「わかったよ。もう大丈夫だ」
悟は高木の肩を叩いた。水球をやっていたという高木は横幅が広いタイプで身長は悟より20センチほど低い。年齢は悟と同じ25歳で、一重瞼の奥にとても綺麗な黒い瞳を宿す。
現場では常に二人ずつが同時に行動するが、悟と高木は決まってコンビを組んでいる。
バレーボールで培った身長の高さとバネが長所の悟とは、ちょうどバランスの取れたいいコンビだ。
悟らは道の左側に渡り交番に近付いた。
入り口の壁に戸部署管内での昨日の交通事故件数が掲示されている。
『死亡1名、負傷者5名』
合計6名。ちょうど自分たちの人数と一緒だった。
(だからなんだ?)
偶然の一致であり、そこに関連はない。
それでも悟は何故か不穏な感じを受けて掲示板から目を逸らした。
高木がコンディションを整えるボクサーのように首を左右に動かしながら、交番脇の広場に建つ仮設テントへと進んでゆく。悟も後に続いた。
テントの中は立錐の余地がないほどに混み合っていた。
各班の隊員が交番との間を慌しく行き来しているために出入りも激しい。
悟らは指揮班の説明と指示を仰ぐべく奥の無線機などが設置された長机の前に進んだ。
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