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 それから、本当に忙しくなった。  日光の保全のために作った保晃会の運営はもちろん、那須野が原の開拓はすべて安泰とはいかなかった。運河事業は認められず、まずは灌漑用水の整備と開拓からはじめよとのお達しにより、二人は那須開墾社を立ち上げ開拓を行った。移住人の日々の暮らしの手配をしたり、疏水建設の金策に困って上京を繰り返したり、日々が目まぐるしく過ぎていき、那須疏水の完成までを、丈作と武は駆け抜けた。  那須疏水が完成したのは、丈作の戊辰戦争時代の人脈と、類まれなる行動力があった故であろうし、丈作にとっては傍で支える武の存在があってのことであった。  時代を駆け抜けて、そして。 「丈作さん……は、もういないのか……」  座って、今までを思い出している内に、眠ってしまったのであろうか、ふと目を開けると、空が白み始めていた。  夜明けは、那須野が原の地平線から上がってくる。  眩しさが目を焼いた。水路が日光を反射しているのだろうか、今までよりも、夜明けが明るく見えた。  まだ、開拓は道半ばだ。丈作の意志を継いで、武は才を尽くそう。  半年前、常盤が岡で画帳を開いていた丈作が、また岡に登れば居るような、そばにまだいるような気配がした。少なくとも、丈作の意志は、ここにある。独りではない、意志があるのなら、私は才を尽くすまで。 「私は、丈作さんの描く絵の、絵筆ぐらいにはなれるでしょうか」  丈作の、隠してある画帳のありかを、武は知っていた。出納棚の中の、書類に紛れた画帳を取り出す。  笑ってしまうぐらい、下手な風景画が、そこには描かれていた。 終
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