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朝、いつも通り学校へ行った。1年半通った、家から自転車で20分の都立高校。創立150年を誇る我が高校は、いつどの角度から見てもおんぼろ。改修工事も何度か行っているが、至る所でその歴史は感じられた。でも、私はその雰囲気も含めて気に入っていた。
少数の生徒が歩いている校門を通り抜け、一応屋根付きの、校庭の脇にある自転車置き場に自分の自転車を止めた。自転車置き場は校内に数か所あるが、その中でもこの自転車置き場は生徒からの人気が一番低かった。なぜなら、風が吹くと校庭の砂が自転車にかかるからだ。しかし、私はこの場所がお気に入りだった。校舎に一番近いという理由だけでなく。
そして、生徒玄関へゆっくりとした足取りで向かう。校庭には、朝練をしている運動部。野球部、サッカー部、ソフトボール部…。1学期末の試験を終え、これから来る夏の大会に向けて運動部は気合が入っているように見えた。たびたび砂埃が舞い上がる。その中でひとしきり輝く人を目に焼き付けながら、靴を履き替えるまでが私の朝の日課だった。
私はその朝の日課と、電車通学の生徒とのバッティングによる人込みを避けるために、少し早く登校している。そのため、3階にある2年5組の教室にいるクラスメートは少ない。教室に入ると既に登校しているクラスメートと必然と目があった。普段あまり話すことのない人だけど、笑って「おはよう」と声をかけた。相手も笑顔で返してくる。
窓際の自分の席にたどり着き、カバンを机の横に掛ける。席に座ると、ここからも校庭はよく見えた。
しばらくぼーっと外を眺めていると、「おはよう、葵。また見てたの?」と声が聞こえた。友達の奈々の声だった。気がつくとクラスの半分以上の席が埋まっていた。前を向くと、満面の笑みをした奈々がいた。
「ほんと、好きだよねー。早く告白すればいいのに。見てるこっちが歯がゆいよ。もう結果は決まってるようなものじゃん。」
前の席に座り、後ろを振り向いた奈々は言った。それに対して、
「言えるわけないじゃん!!付き合いが長いからこそ言えないことってあるんだよう。」
私は力なく返事をする。
いつの間にか校庭に人影はなくなっていた。
「でも、明日は葵のあれじゃん!チャンスだと思うけどなー。」
「あれって?」
「え、忘れたの?試験ボケも大概にしなさいよー。明日は7月17日でしょ。」
――――ガラッ
その奈々の声と重なるように、教室の扉が勢いよく開いた。
「セーフ!?!?」
大きな声で入ってきたのは汗だくの男子たち。今まで校庭で朝練をしていた人々だった。その様子を見ながら奈々は言った。
「ほらっ未来の夫がきたよ!」
「もうっ!奈々ってば、聞こえる!聞こえる!」
私はそう言いながらも目線をドア付近の集団へと移した。その時、一人と目が合った。
パッと目をそらす。
そして、私はそれを誤魔化すように「そういえば奈々。ご報告があるんだけど…。」と早口で言った。
その直後、始業を告げるチャイムが鳴った。
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