~気候獣(後編)~

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~気候獣(後編)~

「――ここは······上手くいったのね」  真っ白い空間。これで2回目で少しは慣れたかも。周りを見渡すと前回と同じように目の前に気候犬がいた。私の目を見ていたので私も目を合わせてみると、すぐ目を逸らして空間を回り始めた。 「う~ん」直感で私も気候犬の後ろに付いていく。  一人と一匹が空間を回る······。  5周、6周、何をやっているんだろうと思っていたら気候犬はピタリと止まり振り向いて近づき足に頬で触れる。 「カワイイ、ありがとう」  私をわかってくれたと感じたそのとき、  謎の光景を目にする。 「え、なに? 赤い、マグマみたい······」  ただただマグマが流れるのを目にした。  そして······。 「うっ」  ゆっくり目を開く、 「今のはいったい······」 「お疲れ様でした未来さん。無事終わりま したよ」 「そう、良かっ······た」  台風は消え照りつける太陽。成功による安心と疲労でまた気絶してしまった。  でもこの時の私は綺麗な大空と大海に安堵していたのを覚えている······。 「う~ん」 「目が覚めたのね」 「生月先生――ということは」  そう、ここは保健室。 「ふう~······生月先生っ、お腹の、お腹の子はっ!」 「大丈夫、大丈夫だから落ち着いて」 「あ~よかった~」 「フフ、前と同じね」  途端に恥ずかしくなった。 「あ、そうそう『霞が気がついたら社長室にこい』だって」 「じゃあ行かないとっ」  ベッドから起きると、 「それと」 「はい?」 「妊娠4週目だけど、問題ないわ」 「そうですか······」お腹を擦る。 「でも、色々症状が出る頃なの、薬、忘れないでね」 「はい」 「あと、運動も」 「え、どうして」 「出産する体力もないとね」 「出産――わかりました」  体の中から嬉しさが湧いてくる。そんな気持ちで社長室に向かう。 「――失礼します」  まず目に入ったのはソファーに座ってる人、 「徹······」だった。 「······調子はどう? 未来」 「徹、うん、疲れは残ってるけど、前よりはマシよ」  それと、 「社長」 「えっ、社長って」  私が霞さんに社長と言ったことに一瞬戸惑ったみたい。その霞さんは後ろを向き、 「今回はよくやった。以上っ、もう帰れ」 「······はい」  さっきまでの明るい雰囲気が一気に寂しくなる。成功すればと期待していた私が甘かった。霞さんは全然認める気はない、そう思いショックを感じてると、 「帰ろう、未来」 「うん、失礼しました」  私服に着替えて徹と二人で会社を後にした······。  会社を出ると外は夕方の6時くらい、私は徹と歩きながら訊いてみた。 「ねえ徹」 「ん?」 「どうしてお義母さんは、私のこと認めてくれないのかな」 「······オレも変だと思ってるよ。優しかった母さんがこんなに未来に冷たくするなんて、妊娠して喜んでくれると思ったのに」 「うん······」 「母さんは昔、大学の研究員でさ、そこで父さんと出会って、結婚して、オレが生まれた」 「へ~」 「――そのあと離婚、女で一人でオレを育ててくれたんだ」 「それで社長なんて――お義母さん凄すぎ」 「だから母さんは······結婚は意味がないって思ってるのかもしれない」 「そういえば、前に生月先生が、お義母さんに辛い事があるって言ってたなあ」 「生月先生は、昔から母さんの仕事仲間だからね」  私も、どうすれば良いのか分からないけどお腹の子と徹とで家族になりたい。そのためには今出来ることを精一杯やるしかないと思った。 「あと徹、今日のこと内緒にしててゴメンね」 「ホントだよ、まあ、信じてたけどね」 「そうなんだ」 「それで前の事思い出したよ、ホラッ、大雪の時」 「――隅野さん、と、とにかく、どっかで温かい物食べないとっ!」  私たちは近くのお店でラーメンを食べることに。 「道長君、しょうゆラーメン好きなの?」 「えっ、うん、隅野さんは味噌ラーメン好きなの?」 「特に決めてないの、思いつき」 「思いつきなんだ――」  食べたあと、徹の家に向かった。 「ハァ、ハァ······」 「隅野さん、ホラッ、手っ」 「うん、あと――おごってくれてありがと」
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