~報告 (前編)~

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~報告 (前編)~

「や、やったー!」 「何だ?」  それは付き合って5年目のことだった。同棲していた私達に嬉しいことが、 「どうしたの未来」 「妊娠した!」 「ホントか、やったぁーっ」  最初は二人で喜んだあとすぐ彼の笑顔は徐々に真顔になっていった。 「そうか~······」 「ちょっと(とおる)、もう少し喜んでくれてもいいんじゃないの?」 「いや、母さんに報告しなきゃと思って」 「あ、そうね」  この5年間、徹のお母さんとは毎年数回ぐらい会う程度で、その時さえ顔見て挨拶してもすぐ仕事に行ってしまうような忙しい人。だから今回こそちゃんと報告しないと。徹もあまり話してないみたいだし······。    蝶都市の高層ビル株式会社マザー・クリエイト。  入り口にはいると二人の女性の受付人が、 「いらっしゃいませ――徹様!」 「様はやめてよ」 「はい、そちらの方はたしか――徹さんの彼女!」 「はい、未来です」 「挨拶はいいから、母さんいる?」 「はい、おりますが」 「ありがと、じゃあ行こう」  返事をして私と徹はエレベーターに乗る。 「うわー、高い」  実は会社のエレベーターは初めて、 「30階建てだからね」 「お義母さんて、凄いなー、何か緊張してきちゃった」  上に進むにつれ少しづつ不安になっていると、 「心配ないよ、母さんは優しい人だから、未来もちょっとだけ会ったことあるだろ」  徹が笑顔で言ってくれたけど、ちゃんと受け入れてくれるかやっぱり少々気がかり。  25階でエレベーターを降りて進むと社長室の札が見えた。 「社長室······」 「ほら、行くよ」  不安な声を漏らす私を徹は手を掴んで扉をノックする。 「母さん、入るよ」  扉を開くと薄紫色でポニーテール、徹のお母さん、道長(みちなが) (かすみ)さんだ。 「おー、徹、どうした?」 「失礼します······」 「ん、あんたはたしか」 「隅野(すみの) 未来(みらい)です」  白衣に身を包み眼鏡をかけて何か威厳を感じる、それは責任者としての部下を持つ社長という顔なんだと思った。 「母さん話があるんだ」 「何だい、暇じゃないんだ、座れ」  私と徹が右側、霞さんは左側のソファーに腰を下ろす。 「母さん、オレ······未来と結婚したいんだ!」 「と、徹っ」  突然の告白に、嬉しさと彼の堂々としたカッコよさで頭の中はもうドキドキでいっぱい。 「······ダメだ、以上」  えっ、霞さんから出た言葉に一瞬頭の中が白くなる。 「母さん、どうして」 「お前に結婚はまだ早い」  そう言ってソファーから立ち上がり窓の方を向く霞さん。 「何でっ」 「それと、女はもっと上等な奴にしなっ!」 「お義母、さん?」 「未来の前で何てこと言うんだっ、失礼だろっ!」  幸せな雰囲気が一転し徹も怒り、立ち上がって話を続けた。 「母さんなら喜んでくれると思ったのに!」 「フンッ」 「――母さん言っとくけど未来のお腹には、子供がいるんだ」  霞さんは一瞬言葉に詰まるが振り向いて、 「――あ~そうかい、で、幾らだい?」 「なっ」 「子供を下ろすのに幾ら必要だって聞いてるんだよ!」 「何で、何で何だよ母さん。母さんは、オレと未来が付き合ってた5年間そんな酷いこと一言も言わなかったじゃないかっ!」 「付き合うと結婚は別なんだよ、あたしが認めた奴しか許さないよ」  一気に喧嘩ムード、睨む徹と冷たく見下す霞さん。そんな張り詰めた空気が嫌で私は、 「お、お義母さん······」 「お前、言っとくがあたしはあんたの親じゃないんだ。その呼び方は止めなっ」 「どうしたら、どうしたら認めてくれるんですか?」  私はソファーから立ち何とか許してもらう言葉を脳内から探して、 「私は徹さんと一緒になれるなら、何でもします」  こう言う以外にないと思った。  霞さんに見られると蛇に睨まれたカエル状態になってしまう、けど逸らすわけにはいかない······。  少しの沈黙から口を開いた霞さんは、 「何でもやる、か······ならやってもらおうじゃないか」 「はい」 「未来、ちょっと待って」 「徹、でも」 「母さん、未来に何をさせる気だ」 「徹、お前は黙ってろ」 「母さん、まさかっ!」
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