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~バタフライ~
正直ショックは隠せない、本当にこんな事になるなんて思ってなかったから、でもここからが始まり。
「未来」
「あ、徹ごめん、なに?」
スカイカーのドアを開き、
「ホントすまない、こんな事になってしまって······」
「悲しかったけど、頑張るから大丈夫!」
「無理だけはしないで、未来」
「うん」
徹を心配させてしまった。でも彼と別れることは想像出来ない、産まれてくるこの子のためにも······。
「母さんは優しい人だから······」
「子供を下ろすのに幾ら必要だって聞いてるんだよっ······」
オレはまるで天国から地獄に突き落とされた思いだった。まさか母さんがあんなふうになるなんて。
更に未来が“マザー·プロジェクト”のテストパイロットに。そんな大変な一日だったのに未来は、
「徹、ご飯にするね」
5年も付き合ってれば無理してるのも分かるのに、そんな未来の台所に立つ後ろ姿が頼もしく美しく見えた、オレも何か行動しなければ······。
「ねえ、未来」
「なに?」
「野菜オレ切るよ」
「じゃあ、お願~い」
――次の日、朝食後に薬を飲んだあと私は友人にLINEで「今日会えないかな? 大変な話があるの」
と送ったらお昼に、
「大切な話? うん、分かった。今日の午後4時位にバタフライで会おう」と返してきたので即OKした。
午後3時50分、カフェ·バタフライは私と徹のマンションから歩いて2キロ位の所にあるの。私は少し早めに着き、いつもの窓際に座る。
「あと10分くらいか~」
ゆったりしていると、自分の目線はいつの間にか子ども達の方に向いていた。
「······やっぱり、カワイイな~」
見ててほっこりする。自分から産まれてくる子は、わんぱくなのか、大人しいのか、一体どんな子なのか色々頭に浮かべていると、
「ごめーん、待った?」
「ううん」
黒髪でショートカットのオーバル型眼鏡をかけた、しっかり者の親友、心拠 愛。
「何か飲もうか、未来」
「うん、じゃあね~――」
私はタピオカ、愛はコーヒーを頼み、飲みながら話すことにした。
「最近、愛は調子どうなの?」
「最近か~」
「ん、何かあるの?」
「ちょっと仕事が退屈かな~、今ってさ、何をやるにしてもAIでしょ」
「うん」と返事をしてタピオカをすする、美味しい。
「学生の時は、AIのメンテナンス授業とか受けてこういう仕事も良いなあって思ってたけど······」
「そういえば高校の時にやったね、その授業」
「そんなことばかりだからさっ、もうちょっと人のために仕事したい、って感じよ」
目をつぶりながらコーヒーをすする愛。
「愛は真面目ね~」
「それで、未来の話は?」
「そうだった、コホンッ、あたし······妊娠したの」
「えっ、ウソッ、妊娠!」
愛は驚いたけどすぐ笑顔になって、
「おめでとう。で、妊娠は······3週目、4週目くらい?」
「さっすが~、よく解ったわね!」
「だって未来、すぐあたしに言うから何となくそうじゃないかなってね」
これよ、この反応っ、私は嬉しくなった。私も愛のこと分かるけどね。
「でも続きがあって~······」
「なに?」タピオカを飲み、
「徹のお母さんに会いに行ったんだけど」
「ふんふん」コーヒーをすする。
「結婚反対されちゃって」
「えっ、そうなのっ?」
「うん、それで話しあって······徹のお母さんの仕事することにしたの」
「反対されて仕事することにしたって、妊娠してるのに酷いじゃない」
笑顔だった愛の顔が眉間にシワを寄せて一気に曇り私はすぐ、
「だっ、大丈夫っ、大丈夫だから、ねっ」
「未来ぃ~、本当に大丈夫なの~?」
「はっ、ははっ」
「反対してるお母さんの仕事って、どんな仕事なの?」
「え、えっと~······じ、事務よ事務っ」
「······ふ~ん、そっ、じゃあ安心ね」
少しホッとしてタピオカを飲み尽くす。さすがに私がテストとはいえパイロットになったなんて心配性の愛にはとても言えなかった。
――長々と話し午後5時になったので、
「もう帰ろうか」
「そうね、妊婦さんだしね」
「ありがとね、愛」
「何かあったら、またちゃんとLINEしてよ」
「うん!」私は頷きバタフライを後にした······。
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