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「マスター! 起きたんですね!」
喜びの声をあげたエルが、すぐに俺から離れ、大創造主の側に寄って行った。まだ半身が棺の中にいる、爺さんの首筋に抱きつき、めいっぱいのハグをする。
「無事に目覚めて良かった。今夜はイブなんですよ。マスター。メリー・クリスマスー!」
目を輝かせて、エルは本当に嬉しそうだ。まるで最高のプレゼントをもらったように。
はぁ…。
やっぱり発電機プレゼントなんて、無粋だったかな?
俺は小さくため息をついて、やれやれとつぶやいた。
ラッコの他にも、数匹の動物を連れて来てたはずだ。袋の中をさぐり、取り出したウサギの喉を切る。赤い血を、三人分のワイングラスに注いだ。
「では、クリスマスにかんぱーい!」
エルが朗らかに乾杯の音頭を取った。三人でワイングラスの生き血を飲み干す。
ダイニングルームは、ろうそくと暖炉の明かりで温かく輝いている。
大創造主の長い昔話を、エルが楽しそうに聞いている。少々歪とはいえ、ヴァンパイア同士で明るい雰囲気が部屋に満ちていた。
俺は先ほどのエルのキスを思い出して、嬉しいような、残念なような気持ちになった。
邪魔が入ってなかったら、俺は一体何をしていたんだろう?
…まあいいか。どっちにしろ、エルが幸せならそれでいい。
聖夜に喜んでいるエルは可愛かった。俺はこの笑顔をずっと見ていたい。
守るべき相手と、心が温まるこの気持ちを、きっと『幸せ』って言うんだろう。
これが俺の仲間で、大切なヴァンパイア家族。
ずっとこいつらを見守ってゆくのが、俺の平凡で、平和な日常。
(おしまい)
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